第23話 道中、そして田舎くらしとおじいさま 3
「ソフィア、大きくなったな」
ソフィアは祖父の胸に飛び込んだ。
軽々ソフィアを持ち上げる祖父。フレーベル叔父さんも背が高いが、体つきはほっそりしている。
だが祖父は横も縦も大きい。片手でソフィアを抱きかかえてしまう。
ダークブラウンの瞳と髪、まるで熊のような存在感がある。
ソフィアは幼いころに戻ったように、祖父に抱きついた。祖父からはお日様のにおいがする。少し魚の臭さがあるが、釣りに行ってきたというから大量に魚がとれたのかもしれない。
「お祖父様、たくさんお話したいことがあるんです」
「そうかそうか。夕飯にみんなの話を聞こうじゃないか」
ソフィアが祖父と話をしていると、大きな体の男に驚いたココとキキが興味あるようで近づいてきた。
「この子たちは……」
「ココとキキです、お祖父様。わたしの妹たちです」
「ココとキキ、旅は楽しかったか?」
ソフィアは祖父の腕からおりた。すると祖父はココとキキをそれぞれ片腕に抱き上げた。
二人をいとも簡単に持ち上げる。ココとキキは視界がいきなり高くなったことに驚いて祖父の腕につかまった。だが祖父の顔が近づくと、エメラルドの瞳でじっと観察した。
「ココです、お祖父様。旅は楽しかったです」
「キキです、お祖父様。お会いできてうれしいです」
それぞれちゃんと挨拶をしてから、遠慮がちに祖父にハグをした。祖父は嬉しそうに双子をだきしめた。
初めて祖父に会うココとキキ。初対面は成功したようで、そのあとも祖父の傍から双子は離れなかった。母も父も叔父もそれぞれ道中の話をしながら、祖父と歓談することになった。少しお茶を飲んで体を休めてから、荷ほどきをすることになった。
そしてソフィアたちが通された部屋はとても大きいものだった。家具などはほとんど置いてきてしまったので、設置されているものを使う。
だが木製の暖かみのある家具はよく手入れをされていて、古いが汚くはなかった。
ソフィアの部屋の横に双子たちの部屋。その隣には母と父の部屋がある。
フレーベル叔父さんの部屋は、お祖父様が使っている書斎の近くにあるという。
「この部屋……、小さいころのままだ」
ソフィアが小さい頃に、一人で滞在した祖父の家。この部屋で長い時間滞在した。
ソフィアがいる部屋は、お祖母様が幼いころに育った部屋だ。
お祖母様はお婿をとったのだ。お祖父様は、婿養子である。
身寄りのない子どもを、曾祖父が引き取った。その子どもは、とても優秀だった。だからこそ男の跡継ぎがいない家に、跡目として育てた。
そしてお祖母様は小さい頃からお祖父様と婚約者だった。
「お祖母様っていつも楽しそうに笑っていたってお父様から聞いたわ」
部屋のインテリアはずっと変わらない。祖父と結婚して、部屋を移動したがこの部屋はそのままだったという。
もしお祖母様に女の子どもができたら、この部屋を使おうと思っていたという。だからソフィアがこの家に滞在したとき、お祖父様は楽しそうにこの部屋を開けてくれたのだった。
華奢で栗毛、ブルーアイのお祖母様。お菓子を作るのが好きだったお祖母様。お祖父様は、浮気もせずお祖母様に一筋だったという。
ソフィアにとって、両親も理想の夫婦。祖父母も理想の夫婦。
どんな形であれ、心が通じ合っている結婚はあこがれる。でも自分がそんな結婚ができる自信はなくなってしまった。まるでおとぎ話のようだと思えてきた。
「くよくよ悩んでも仕方ないわ」
ソフィアは荷ほどきをして、それから数日片付けをしていた。妹たちの部屋も片付けをして、あっという間に時間は過ぎる。
フレーベル叔父さんは、ワークホリックで新しい事業をはじめようと動き出した。
父はお祖父様の仕事の手伝いをしはじめた。母も新しい土地での生活に慣れようと、ソフィアとキキとココを連れて周辺に出かけていろんな人と顔合わせをした。
ソフィアは懐かしい田舎の風景に、かつて子どものころ駆け回った記憶を思い出した。周辺で顔なじみになった人々とも再会し、新しい生活に慣れていった。
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