第24話 道中、そして田舎くらしとおじいさま 4
「ねえ、お母様。お父様がイキイキしているわ」
「うふふふ、ソフィアはフレデリック様の本業を知らないものね」
ソフィアは白衣をきた自分の父の姿に目を丸くした。
祖父の家に身を寄せてしばらく経った。
フレーベル叔父さんは、王都での経験を活かしてこの辺りにレストランを作ると言い始めた。宿泊施設も併設し、雑貨や衣服も売るという。
あくまで小規模だが、どれも品質がよく高単価。一部は平民でも使うことが出来るが、メインの集客は王都からの他国へ行く行商人や貴族だ。
王都から隣国へ繋ぐ街道、その中間点にこの土地は位置する。
つまり交通の要所である。近隣には宿などあり、そこはお祖父様の采配(さいはい)により宿場町として賑わっていた。だが、新たな施設を作り集客を目指すという。
そして、フレーベル叔父さんが手がけたのは新しい食材の調達。まずこの地域では食べられていない食材や、土地としては生育が難しい植物を育てることだ。
新しい食材の開発、それを請け負ったのは父であった。
父の手は緑の指だった。まさに植物が元気を取り戻すようにいきいきと育つ。そしてまずここでは育たない植物の品種改良にも次々成功をし始めた。
「お父様の手は魔法がかかっているみたいだわ」
「ええ、フレデリック様は植物の声が聞こえるのではないのかと噂があったくらいなの。プレゼントしてくれるお花は、普通の花と違うのよ。なかなか枯れないし、まるで魔法みたいなの」
屋敷の離れにある建物では、作物の品種改良が行われている。そこで害虫に強い作物を考え、育てやすい植物の研究がおこなわれている。
その施設で働き始めてから、父は毎日が楽しそうだ。父は今まで遠慮がちで少し辛そうであったが、充実した日々に戻ったようであった。
ソフィアは父が笑顔であると母も笑顔になり、家族が笑顔であると、自分が笑顔になることに気がついた。キキもココも毎日楽しそうだ。屋敷内で飼育している動物などたくさんいて、双子たちは遊んだりしている。
王都にいるころは、夜会が頻繁(ひんぱん)に行われ、両親が夜遅くまで帰ってこられないことがあった。
だが、今は仕事もそれなりに早く切り上げられ、家族で一緒にいる時間も多くもてるようになった。
ソフィアはというと時間をもて余していた。
生活に慣れるまでは何かすることは様子をみるつもりだったが、あまりにも家族の適応力が高すぎた。
母も近隣のご婦人たちに大人気であり、ご婦人たちの集まりに顔を出すようになった。家事もキキとココたちの面倒をみる必要はなくなったため、ソフィアは日中やることがないのだ。
「なんだ、そんなことか。ソフィアがやれることか……、たくさんあると思うよ」
そんな時に頼りになるのは、やはりフレーベル叔父さんだった。叔父さんだったら、この周辺のことをよく知っているし、ソフィアがやれそうなことの助言をもらえると思ったのだ。
フレーベル叔父さんの書斎を訪ねたら、叔父さんは机で書類を書いていた。邪魔をしないようにまた声をかけようと思ったら、叔父さんは気がついた。
そこで率直に自分にやれることはあるかと尋ねたら、あっさり答えてくれた。
「ソフィアがやれること。まず、この辺りは学校が不足している。だから敷地内の建物で子どもたちの学校があるくらいだから。そこで文字や裁縫を教えてもいいと思うよ」
「え!それは楽しそう!」
「だろう?裁縫を人に教えると、気がつかないことが見えてくるだろうし」
「ええ、人に教えることができるか心配だけれど」
「大丈夫だろう。あとはいつか、ソフィアに言おうと思っていたことがあるんだ」
「え、何かしら?」
「この辺りで採れる綿は、すごくやわらかい。それで雑貨や服を作って売ろうかって思っているんだ。新素材に近いものだね」
「綿というと、下着や普段着にぴったりね」
「ああ、シルクとは違って丈夫だからね。シルクもここの土地はよくとれるね。あとで職人さんのところに行っても勉強になるかもしれないね。あとこの独自の織物をしている工房もあるから、見学に行ってもいいだろうね」
「まだまだ知らないことがたくさん!」
「ソフィアこそ、せっかくだからゆっくりしていてもいいだろうに。だから特に何も言わなかったのだけれどな」
「叔父様こそ、全然休みをとらないじゃない」
「休むとかえって疲れてしまうんだ。老け込んで、もしかしたら病気になってしまうかもな」
叔父さんは声を出して笑った。叔父さんも王都にいたころより、背負うものが少なくなった。
だから自分でやりたいことを積極的にやっているようだった。どんなことしているか、ソフィアには詳しくはわからなかった。だがきっと叔父さんにとってワクワクすることを楽しんでいるのだと思った。
「わたしいろいろやってみたい。夢が広がるわ」
「ああ、いろいろやってみるといいよ。いい経験になる。ソフィアの人生が豊かになるよ」
「叔父様ありがとう」
ソフィアはそれから行動し始めた。まずは敷地内にあるという学校を見学してみることになった。
そこは小さな建物だったが、意外に中は広々としていた。机と椅子がたくさんあり、文字を教えるための黒板が前に置いてあった。
農村地域で育つ子ども達がここへ集まって学ぶという。
王都で学び、帰ってきて先生になった人が何人かいるという。叔父様が優秀な子どもには奨学金としてお金をだして、王都にある学校へ通わせることもあるという。
中には王都で学び、平民だが官吏(かんり)試験に受かって働き出した者もいるそうだ。
ソフィアはすぐに先生たちと打ち解け、時間を見つけて文字や裁縫を教えだした。少しずつ自分のやりたいことが出来てきて、ソフィアは充実した時間を過ごす。
だが、ソフィアはまだ知らなかった。波乱の出来事が待ち受けることに。
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