第30話『狂気山脈』

 ここは、東京都千代田区の虚子のひきこもり部屋。12のディスプレイには、1カ月前に局所的な巨大地震とともに急激に拡大し続ける富士山の様子が映されていた。


 この一連の地殻変動により富士山の標高は今や1万メートルを超えるほどに成長している。富士山の標高は、元の大きさの2倍以上にまで成長していた。普段は、テレビ番組を見ない、銀星と虚子もこの富士山の異常な膨張現象を解説するニュース番組を見つめていた。


「——現場、高度1万1千メートル上空、超高度対応の特殊ヘリコプターの中から中継します。映像をご覧の通り、ゆっくりとでありますが富士山が、今も地中からせりあがってきてきております。富士山頂の火口からは、赤黒いマグマがあふれ出しており、止まる気配がありません」


 画面は、スタジオに切り替わる。コメンテーターの解説に切り替わる。


「それにしても、まるで山がせりあがってきているように見えますね。竹の子のように地面から伸びているように思います」


「実際にはぁ、まぁ、違うんですが、まぁ一般の方たちにはそのように思われても仕方がない現象が起きていると言ってもいいでしょう。実際にはユーラシアプレートと北米プレートが衝突した結果でありぃ……、」


 解説が長引きそうな予感を察知して、コメンテーターが別の話題に切り替える。


「田岡さん。この事象の危険性に解説ください」


「えぇ……っと。このぉ富士山の急激な巨大化は火山活動の一環なので、噴火の可能性は非常に高いでしょうねぇ。静岡県の富士山から半径50km圏内の住民の一斉租界が完了しているとの情報がありぃ……。えぇ、住民の避難自体は当初の想定以上に順調に進んでいるとの報告が入っております。はい、で……」


「なるほど。住民たちの避難は、順調に進んでいる、と。楽観視できる状況ではまったくありませんが、避難活動が順調というのはこの状況で唯一のよい報告ですね」


「そうですねぇ。はい。この辺りは、やはり過去の神戸淡路大震災、東日本大震災の時の教訓が生かされているというか、地震大国である日本のノウハウがきっちり生かされていると、そう僕はぁ……」


「——経験が活かされている、と」


「はいぃ。あとは、このような大規模な地殻変動にも関わらず、地震の被害が異常に局所的なレベルにおさまっているいるという理由もあるでしょうねぇ、まぁあくまでも……」


「確かに、富士山が三倍以上の大きさに成長している、という言葉が正しいかはわかりませんが、拡大しているにもかかわらず、地震が局所的なものに限定されているというのは、不思議ではありますね。田岡さん、解説いただけますか?」


「……いや、まだですね、有識者の間でもですね、この現象についてのまとまった見解がなくてですね、科学者の私の立場では適当なことも言えないので、ここは、分からないと回答します」


 報道番組に同席していた、バラエティータレントの一人がコメントをする


「それにしても、めっちゃ富士山おおきなりましたねぇ。これって、すでに標高的にはエベレスト超えてますよ? 現在の山頂は標高1万メートルでしたっけ? エベレストが8千5百メートルですから、あれよりも大きいって、ハンパないっすよ?」


「そうですねぇ。現時点で千五百メートルもエベレストより高いですからねぇ」


「富士山が、名実ともに世界一の山になったっちゅうわけですか。はぁ……これって、ギネスブックに認定されるんじゃないですか? 世界一の山って」


「まぁ、そうなるでしょうねぇ。火山活動が落ち着いたら、世界各国の登山家も、この富士山を踏破しようと集まるでしょうねぇ。静岡県が日本の新たな観光スポットとなることは、ほぼ間違いないと、言われておりますねぇ、たとえば……」


「観光ですか、詳しくお聞きしてよろしいですか?」


「はい。現在、静岡県内の観光産業の株価が軒並み高騰しているんですよ。不動産価格も異常に高騰している。これは、投資家が静岡の観光ビジネスの発展を確信しているため、外国人観光客が期待できるのではない、かと言われてます。私個人としては、気が早いなぁと思うのですが、投資家たちが動いているということはそういう風に、経済は動いている、と。まぁそう考えてそう大きな違いはないだろうなと思います。」


「やっぱり、世界一、っていうのは強いですよねぇ」


 富士山がせりあがった当初こそ、緊張感のあるニュースが続いていたが、住民の避難が完了し、局所的な小規模な地震が続くだけというような状況では、ニュースキャスターも話のネタが尽きてくる。多少不謹慎と思われるような発言がでてくるのも、ある程度の安心感のあらわれでもあった。


「——えぇ、現場からです。高度1万1千メートル上空、。富士山の山頂から溢れ出るマグマの量が急激に増大しています。山頂から流れ出るマグマの量が明らかに増しているのが、肉眼でも確認できます」


 富士山頂の火口から溢れ出るマグマの量は増していき、そして一旦火山流が止まったかと思った瞬間、富士山頂が大爆発を起こし、——噴火した。


 この静岡の富士山だった山が、世界中から”狂気山脈”と呼ばれるようになるのに、そう時間を必要としなかった。

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