第29話『混沌の萌芽』
「ねぇねぇ、あの”噂”、知っている?」
「——ひとで君のこと?」
「そうそうっ! ネットにアップされたひとで君の情報が一斉に削除されたじゃん。なんか、情報統制みたいで怖いよね~!」
「ニュースによると検索会社の削除AIプログラムのバグだって話だけど……そんなことってあるのかな?」
「それ、ぜったーい政府の陰謀。または、アメリカのエシュロンとかそういうのの仕業だよ。絶対ヤバいって。きゃは」
「それにさぁ、ひとで君を生み出したクリエイターさんも何者かに刺殺されたって話じゃなかったっけ? 物騒だよねぇ、ナイフでぐさりとか、怖い怖い」
「確か、
「そうそう! 絶対! 警察の上層部とかが事件を隠蔽しているよな」
「あたしも、警察の陰謀説に一票っ!」
「それにさぁ、あの
「三眼教は差別用語だよ、親戚のお兄ちゃんも入居しているそうだけど、普通の自立支援施設らしいよ。そういう差別はよくないよー」
「きゃはは。お堅いねぇ! そんな事どーでもいいよー」
「”黒パーカーの少年”見たよ。YouTubeにあがっていた奴だよね。すぐに消されちゃったけど。なんか、ちょーっと前に流行っていた”黒パーカーの少年”の都市伝説を思い出しちゃった。いつの間にか、流行らなくなってたけど」
「あー! あったね。そんな都市伝説! 悪人を裁く正義の義賊的な奴! でも
「あれもおかしいよねぇ、絶対にあれは裏があるよ。企業もグルなんだよ、グル。ぜったいに怪しいよ、だってタイミングが重なりすぎてるもーん」
「怪しいよねー」
「絶対に、何かあるよ」
「絶対変だよね~」
「ぜったい! ぜったーい、おかしい!」
「絶対、陰謀だよ!」
「「「「「「ねぇー!!」」」」」」
——一連の”ひとで君”の画像データの消失事件。これ自体は、検索会社のウェブ監視AIの誤認知バグということで、一旦は決着が着いた。だが、”ひとで君”のデザイナーである
曰く、異世界転生オンラインのドリームランドエリアのプログラマー、曰く、生前に評価されなかった伝説のデザイナー、曰く××××。正しい情報も、間違った情報も学生を中心にして広まり、人々の間で様々な
そして、
”噂”の話題の中心である”ひとで君”を持っている事自体がステータスになり、Amazonにも転売品が高値であふれるようになり、その現象がテレビでも取り上げられと
「ねぇねぇ、異世界転生オンラインに隠されたカダス山に
「なになに!? 知らないー」
「知らないのー? 異世界転生オンラインの中ではすっごい話題になってるんだよー! いろいろな考察者とかも出てきて今、Twitterでの考察がすっごい盛り上がってるんだよ。まずはwikiみなよwiki」
「なんだっけ——あの双子の姉妹塔という隠しエリアで見つかった乱数の羅列を、ゲームの進行クエストの順に日本語変換すると、詩のような物が出来るっていうヤツだよね」
「そうそう、スマホのメモ読むね【”東の都の民の間に、旧神の印が満ちるとき、静謐なる丘はその真なる姿を現す。混沌の体現者より灰が舞い落ちるとき、東の都は異界なるべし”】、意味ありげだけど一回読んだだけでは意味分からないよね」
「wikiの考察を読む限り、この【”静謐なる丘】”っていうのは静岡県のことを指し示す可能性が高いらしいよ」
「へー。サイレント・ヒル、静岡かー。おもしろーい。きゃはは」
「YouTubeの考察者の解説いわく、【”混沌の体現者”】は”狂気の山脈”を意味するんじゃないかって話だよ。ほら、”異世界転生オンライン”でも登場したカダスの山。あれって、この”狂気山脈”をモチーフに作られていたそうだよ」
「あのゲームの設定周りは、故人の
「あー。この【”東の都の民”】の部分は、わたしにも分かるよ! 東京都民のことでしょー」
「まぁ、これは東京以外の解釈はできないよねー」
「「「ねぇー」」」
「この【”旧神の印”】っていうのは何かな?」
「Twitterでみた解釈では、エルダーサインっていう物を意味するらしいよ。画像検索なぅ」
「”なぅ”ってきょうび聞かないねぇ」
「よっと。でてきたー。五芒星の中心に目みたいなのがあるねぇ」
「なんかさー」
「なぁにぃ?」
「気のせいかもしれないけど。そのエルダーサインってこの”ひとで君”に似ていない? っていうかそっくりだよ~!」
「確かにそうだね~一つ目の星型っていう所はそっくりだね」
「それぞれの考察をまとめると、東京都民が”ひとで君”をたくさん持つようになると、静岡に狂気の山脈が出現するっていうような内容になるのかな?」
「おー。凄い、名探偵っ! なんかあってるっぽくないー? それにしても、静岡にカダスの山が出現するとか、ちょーウケるんですけどぉ!」
「ねえねえ、。この【”異界”】っていうのは、”異世界転生オンライン”のことじゃないかっていう話や、単純にこの世界とコトワリの違い世界とつなぐっていう意味と論争があるみたいだけど、ファンタジー世界になったら楽しいね。私、異世界転生オンラインかなりやり込んでるからさ。この人生っていうクソゲーをログアウトして、異世界転生オンラインに転生したいと思っているくらいだよ」
「わかりみ。そだねー。どーせうちらみたいな底辺は、学校卒業しても正社員になんてなることできないしねー。それなら、もうこんな世界壊れた方が面白そう」
「不謹慎だけど、ぶっちゃけ私も同じかなー」
「私もー。わかるー」
「「「「「「ねーっ!!!」」」」」」
「結構、わたしたち良い考察ができていると思うんだけど、どう思う?」
「超イケてる考察だと思う。ネットに挙げよー!」
「じゃあ、私はTwitterに書き込んでおくよ」
「私は、インスタに挙げとく」
「私はwikiの編集権限があるから、考察の項目に追加しておこうかなー」
「「「「「「たのしいねー」」」」」」
このような会話は、彼女達だけが話しているのではない。年齢を問わずに、様々な年齢の人たちが、彼女達がしたような考察をしたのだ。そして、暗号を解こうと、様々な考察者達が熱狂した。特に、この暗号の”東の都の民”に該当すると思われる、都民の間では、この考察という名の遊びが特に活性化していた。
日本全国のいたるところで、この
彼の死によって、彼が植えた『混沌の種』が、『人々の噂』というエネルギーをくみ上げ、地中深くに自ら根を張り、今まさに現実の世界への侵食せんとしていた。
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