第21話『皮はぎあきちゃん』
「ぬるぁっ——ぐれぇすとおおおおおおっお!!!」
銀星は、
銀星は、確実な検死を行うために、L字の先端を脳髄に到達するまで、ぶち込み、まるで蟹みそを掻き出すかのようにてこの力を利用して、脳みそを抉り出す。飛沫となった、骨片と、血と、脳漿と、脳片——混然一体となった汚物が、中空に飛飛び散る。
《かーちん、お疲れ様なの。いつにも増して——グログロなの》
「怪異ってさ、もともと死んでいるようなもんだから、正直どこまでやれば死んでるのか俺には良く分からないんだよ。だから念には念を入れて仕留めているだけで、俺に、死体を過剰に損壊するような趣味があるわけじゃない。その点、信じて欲しいぜ」
《長い付き合いだから、分かっているなの。危険な任務——お疲れ様だったなの》
『皮はぎあきちゃん』、比較的マイナーかつ認知度の低い怪異であるが、その狂暴性は極めて高い。一時期、流行った都市伝説ではあるが、最近では人々の間の記憶から消えさったとも言っていいほどの怪異である。
都市伝説、『皮はぎあきちゃん』の伝承はこうだ。顔がイボだらけの『あきちゃん』が、自分の顔の皮を一枚剥がしたら綺麗になるかと思い、激痛に耐え、カミソリで自分の顔の皮を剥がしたそうだ。まるで、ブドウの皮を剥くように。
『あきちゃん』の顔の皮の下にあるのは真っ赤な仮面を被ったような更に醜悪な肉塊であった。その日から、『あきちゃん』は夜な夜な、自分と同じ年と背格好の女性に『顔の皮をちょうだい』といい、顔の皮を剥いでいくという、明確な悪意しかない都市伝説である。
「それにしても、この俺が持っている”バールのようなもの”って何なんだろうな?」
「えっと……バールなの、なの?」
”バールのようなもの”、警察が捜査中の事件について、犯人の凶器について報道関係者にその時点までの断片的な情報をもとに使われる用語でもある。実際、殺人事件などのニュースなどで耳にすることの多い凶器である。
人々の集合的な認知の中にある”バールのようなもの”を
たとえば、銀星が愛用するバットがそれだ。身近にありながらも、人を殺傷する能力のある道具。そういった意味では、包丁や、ゴルフバットなんかも
逆に、例えばエクスカリバーを
——人々が本能的に恐れるモノこそ、有効な凶器足りえるのだ
「それにしても、最近はちぃっとばかし都市伝説増え過ぎてねぇ?」
《ボクも、ちょっとこの件数は異常だと思うなの》
「俺は大丈夫でも、ミームは体が弱いんだから無理するなよ。都市伝説よりを倒すことよりも、そっちの方が重要なんだから。ちょっとでも辛かった言ってくれよな」
「——はい、なの」
虚子は少しだけ反論したい気持ちもあったが、おとなしく銀星の言葉を肯定した。『くねくね』の一件で、入院騒ぎになり、銀星に負担をかけたことに少なからずの責任を感じているからである。もちろん虚子も、銀星から大事に思われていることを言葉で言われることに、若干のくすぐったさはあるものの、やはり女性として好意をもっている男性から、気遣いの言葉をもらえるのは嬉しいのであった。
「それにしても、気のせいかもしれないけど被害者が女子中高生が多くないか?」
《さすがかーちん。ボクもそう思っていたなの》
「やっぱりそうだよな。まぁ、元々女子中高生は怪異に狙われやすい傾向はあるからなぁ……」
《そうなの。噂や、怖い話、都市伝説は女子高生や中学生の間で広まる事が多いなの。だから、必然的に被害者が女子学生に集中するのも自然ではあるなの。ただ——》
「——あまりにも偏り過ぎている、と」
《そうなの。グラフにしてみると露骨にそれが分かるなの。あと、被害が都内に集中し過ぎているなの》
虚子は、目の前の12のディスプレイ上に、発生エリア、被害者、そして戸籍データベースや、生前の被害者のSNSの書き込み情報などを洗い出し、被害者の共通項を見出そうと考える。
「ミーム。場違いなことを言うかもしれないが、話してもいいか?」
《現場の意見はとっても貴重なの。ボクは聞きたいなの》
「キーホルダー」
「——!?」
「いや、俺の思い違いかもしれないけど、俺が見た限り少なくとも被害者の女性のほとんどがバッグに『ひとで君』つけていたんだよ。まぁ、あれだけ流行っているマスコットキャラクターだから、偶然かもしれないんだけどさ」
銀星の発言を聞き『事故死』扱いの被害者の遺留品を警察庁のデータベースを参照し確認する。都市伝説の怪異に殺された場合は、チェンソー少女の被害者のように『存在自体が無かった事にされる』、または『不幸な事故による死亡者』として扱われるかの二択である。事故死の場合は、遺留品などの情報を虚子が調査することが可能となる。
「かーちん、ビンゴなの——。都市伝説の全件の被害者の遺留品に『ひとで君』のキーホルダーが確認できたなの」
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