第3話『東京の結界の破壊の仕方』
東京という町は無数の結界により守護されている。銀星と虚子の暮らす千代田区には、日本でも有数の権威のある神社。神田明神がある。三ノ宮に平将門を祀っていることでも有名な神社である。あとは、ラブライブの聖地巡礼先であり、ごちうさ等のアニメ作品とも積極的にコラボすることでも有名な神社である。
東京は、江戸城(現:皇居)を中心として、
「……でさ、ミーム。その『東京の結界を破壊する』って言われている都市伝説を実践しても本当に大丈夫なのか?」
《ちょー大丈夫なの。今日行うのは『東京の結界を破壊する』という都市伝説の検証なの。都市伝説の実証程度で、東京を守護する結界が本当に破られることは絶対に無いから安心するなの》
銀星は背中のバックパックに搭載したドローンに話しかける。ここは秋葉原の駅構内。普通の人間であれば相当な悪目立ちだが、銀星の『そこに存在しているのに認識できない』という存在の希薄さにより、誰もその行為に違和感を持つものはいない。
「確かに……。既に都市伝説になっているって事は何人かが実践してるんだから大丈夫ということか」
《そうなの》
「でも、それなら何でそれを実践するんだ?」
《……その実践を試したと思われる人たちのSNSがその日の書き込みを最後に途絶えてるの。ボクたちは、この都市伝説がどんな災厄をもたらすのか確認する必要があるなの》
「偶然ではないのか?」
《……偶然にしてはその件数があまりに多過ぎるの。きっとこの『東京の結界を破壊する』という儀式には、きっと別の意味があるの》
「了解。まずは秋葉原駅から日比谷線に乗り、茅場町駅で降りるっ……と」
地下鉄で移動する。秋葉原から茅場町であれば2駅なので、自転車で行ける距離だが、この電車に乗って移動するという行為も含めてがこの一連の儀式なのだ。電車は、茅場町に止まり、押し出されるような形で車外に出る。
《着いたね。それじゃ、かーちん。ホームを八丁堀方面に行ってなの》
「向かってるよ」
《鉄格子の下に盛り塩が置かれてない? なの》
「おっ、これか」
《それを足蹴散らすなの》
「なんたる反社会性」
《その行為自体は、全く問題ない、なの。だけど、今はその理由ははぶくなの》
「ま、いまさら反社会的であろーが俺は気にしないけどな……うりゃ!」
ただの盛り塩なので蹴れば当然であるが、そのまま散っていった。
《かーちん。何か違和感はない》
「いや、特に変化はない。……強いて言うなら、いつも通り轢死体の地縛霊が見える程度だけどこれは報告する話ではないだろ?」
《なの》
「それで、次は何をすればいいんだ?」
《そのまま東西線に乗り換え、今度は高田馬場駅で降りるなの》
高田馬場、早稲田大学のある駅である。勉強の苦手な銀星にとっては高嶺の花の大学でしかないが、好きな小説作家の村上春樹や、詩人の寺山修司の母校がある駅という事もあり、幸せや成功者の象徴のように捉えている駅である。
……それ以前に、銀星の場合は、まずは大検の資格を取らないと受験すらできないのであるが。銀星は早稲田の学生と思われる若者達が電車をおりるのを横目に、銀星もホームにおりる。
《西武新宿線乗り換え方面へ進むなの》
「鉄格子下に盛り塩発見っと……うりゃ!」
盛り塩を蹴り飛ばす。
《変化はあるなの?》
「うーん。特にはないよ」
《了解なの。それじゃ東西線で、茅場町に戻って》
「おけ」
銀星はぼーっとしながら電車に揺られていると、茅場町駅に着いた。
「ついたぞ」
《茅場町改札をくぐった先の4a出口の階段でパーカーのポケットにしまってある袋をあけて、中の物を撒くなの》
「ポケットの中の……ってこれか。米粒?」
《10粒の米粒なの。コシヒカリなの。おいしいなの》
銀星はぱらぱらと、階段に米粒をばら撒く。
「ミーム。撒き終わったけど、ここも変化なし」
《報告ありがとなの。改札に戻って日比谷線で築地本願寺訪問に行くの》
「おけ。それで、また盛り塩を蹴ればいいんだな?」
《なの》
「それにしても電車に乗るのって疲れるな……。毎日通勤しているサラリーマンの皆様には頭が上がらねぇ。まるでこれ、移動式の収容所だ」
《終着駅は、クレマトリウムなの》
「はは……。笑えねぇ……」
《現実は都市伝説よりも、恐ろしい……かもしれないなの》
「それでミーム。次は何すれば良いんだ?」
《日比谷線に乗って秋葉原駅まで戻ってくるなの》
「おーけー」
虚子の指示通りに、電車に乗る。
「電車、乗ったぞ」
《お疲れ様なの。それじゃ、かーちん、席に座って目をつぶってなの》
「おーけー。席に座って目を閉じたぞ」
《次に、手を組んでかーちんが最も強く望む事を考えて、なの》
「目をつぶって、手を組んでって。なんか電車内で腹壊して耐えてる人みたいだな」
《まじめにやる、なの》
「おーけー」
銀星が、一番強く望む事。それは――自分のせいで損なわれた『開現寺虚子の体を取り戻す事』である。口には出さずに、そのことだけを強く願った。そして……キーンという耳鳴りが続いた後に、銀星は抗う事の出来ない暴力的な眠気によって意識は途絶えた。
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