第4話『きさらぎ駅①』
「ぃ……ぎぃえ…ぃ。…ぁ…らぁぎぃいきぃ」
銀星は、目を覚ますと、見慣れない駅で目を覚ました。
「お客様、ここが終点です」
優しそうな笑顔で、この車輛の車掌さんと思われる人がそう告げる。
「あぁ……すみません。つい疲れて、居眠りしてしまいました」
銀星はバツが悪そうに頭をかきながら言う。あとで、虚子にどう言い訳しようかなどとくだらないことを考える。
「お客様、ここが終点です」
「……はい」
「お客様、ここが終点です」
違和感……。銀星の存在は、彼が自分から相手に声をかけた時に認識されるものであり、仮に終点まで乗り過ごしても、認識されないため、声をかけられるはずがないのだ。
「お客様、ここが終点です」
銀星はずぃいっと、笑顔のままゆっくりと手を伸ばしてくる車掌の手を避け、そのまま駅を下車する。
「ミーム。……なんと説明したら良いのか分からないが全体的に、何かおかしい」
《カメラ越しじゃないと
「了解」
バッグの中からドローンを取り出し、宙に浮かばせる。
《……確かに何が違うのか、言葉にできないけど違和感を感じる駅なの》
宙に浮いたドローンのスピーカー越しに虚子の声が聞こえる。
「……現実と都市伝説が混ざり合った感じというか。怪異の胃袋の中にいるような感じというか、とにかくじめっとして嫌な感じだ。臨戦態勢に入った方が良さそうだ」
銀星が武器を扱うことができるのは、虚子がカメラ越しに覗いている領域、つまり
《安心するなの。通信状態も良好なの。ボクの
「それで……次はどうする?」
《まずは、駅から出るなの》
「そもそも、これは何の都市伝説なんだ?」
《……駅は、自殺者や人々の負の感情が集まる場所なの。だから駅にまつわる都市伝説は多数あるなの。だから現時点では断言できないなの》
「名探偵ミームの推測は?」
《たぶん……これは、複数の都市伝説の融合体なの》
駅にまつわる都市伝説は数知れない。銀星が寝ったら、たどり着いたという経緯も加味して考えるのであれば猿夢も候補の一つとして考えなければならない。
そもそもの前提として、状況から鑑みればこの都市伝説は『東京の結果を破壊する』という都市伝説からは既に外れている……可能性が高い。
銀星は改札から出て外に出ると、かなり遠くのほうで祭囃子の音、太鼓のような音と錫杖を地面に打ち付けた時のような鈴の音が聞こえてくる。駅のプラットフォームは明らかに日比谷線内の駅では、ない。どこかの地方都市の駅という印象であった。
外はカンカン照りの晴天で、コンクリートが熱せられ陽炎ができている。銀星は右腕で額の汗を拭いながら、状況把握に集中する。
「よしのや、ローソン……現実世界にも存在する施設があるな」
《看板をよーくみるなの。吉野屋、口―ンソなの」微妙に違うパチモノなの》
「口―ンソはともかく、よしのやの看板が『𠮷野家』だってのは初めて知った。『𠮷』とかいう漢字、『吉』と似ていてめっちゃ紛らわしいな」
《𠮷野家の話はいったん置いておくなの。カメラ越しでも感じるこの街の
「このままだと、世界が虚構に上書きされ、この駅が実態化する可能性があるわけだ」
《世界がヤバい、なの》
「とりあえずミーム、俺は次に何をすれば良い? 通り過ぎていく人たちがみんな能面のような笑顔で気持ちが悪い」
《祭囃子の聞こえる逆方向に路線沿いにひたすら道なりに直進するなの》
「この炎天下。走るのは面倒だ、口―ンソの自転車を拝借しよう」
口―ンソに止めてあるマウンテンバイクの鍵を針金を使って器用に開錠し、颯爽と異界の街を駆け抜ける。
「ミーム。気のせいかもしれないけど、なんか結構なスピードで祭囃子の音から逆走しているつもりなんだけど、徐々に音が近づいている気がするんだけど?」
《ドローンの音の解析したの駅前では60
「追いつかれるとどうなるの?」
《かーちんも、ボクも――ゲームオーバーなの》
「ぬうおおおおっ!!! ライトニングダッシューッ!!!」
なにがライトニングなのかは不明だが、銀星はとにかく全速力でペダルをこいで祭囃子の音から逃れるように風を切る。道なりに直進すると『
《やっぱりボクの想像はあたってた! かーちん、そのトンネルを突っ切るなの》
「何だか知らんが、このまま突っ切るぞおおおおぉー!」
銀星はまるでブラックホールのように漆黒のトンネルの中に飛び込んでいった。
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