【妹の日記念】how to 理想の妹 <後編>

 なんだか話が逸れつつあったので、『とにかく』と圭太はやや強引に軌道修正。


「ゲーム好きってことなら、『一緒にゲームしよう』って誘うのが一番良さそうな気がするけど。大石さんってゲームはやるの?」

「いや、その……私もそう思って、結構練習してるんですけど……」

 途端に萎れた顔をする莉々華を見て、圭太はその先を察する。

「うーん……でも、何も大会出るとかそういう話じゃないんだし。一緒に遊ぶだけなら、あんまり気にしなくていいんじゃ?」

「でも、ホントに、自分でも引くほど下手なんです私!! こんなんでお兄ちゃん誘ったって『ふざけてんのか』って思われそうだし! 絶対一緒に遊んだって楽しくないですよ!!」

「……そうかな? そんなことないと思うよ、アタシ。だって、りりちゃんのお兄ちゃんなんでしょ?」

 莉々華の必死の訴えに、初葉はあっけらかんと笑った。

「アタシもね、お兄ちゃんに聞いたことあるんだ。『アタシ、ゲーム下手だけどつまんなくない?』って。そしたらね、お兄ちゃんね……えへへ」

 てろりーん、と、初葉の顔が喜びに溶ける。

「あー、えっと、初葉?」

 続くであろう台詞が割と恥ずかしいものであることに気付いて、圭太はやんわり制止。

 が、顔も脳も蕩けきってる初葉には全く聞こえなかったようで。

「お兄ちゃんがねー。『上手い下手は関係ない。初葉と一緒だから楽しいんだ』って、言ってくれてね。だからアタシも、気にしないでおもっきり楽しもーって思って!」

「上手い下手は……関係ない……」

 初葉の言葉を確かめるように、莉々華がぽつりと漏らす。真剣な顔で。……とはいえ、当の初葉は思い出に浸って『ふにゃー』と頬を緩ませているばかりで、莉々華の様子にはさっぱり気付いていなかったのだが。

「……お兄ちゃんは」

「うん?」

「お兄ちゃんは……私が上手じゃなくても、一緒にいて楽しいって、思ってくれるかな……?」

 敬語の取れた言葉は、独り言に近かったのだと思う。

 でも。同じ『お兄ちゃん』として、圭太は答えるべきだと思ったから。

「少なくとも俺は、妹が、『一緒に遊ぼう』って言ってくれたら、それだけですげー嬉しいと思う。普段、あんま話ができないんだったら、なおさら」

 莉々華は答えない。じっと俯いて、まだ何か考え込んでいる様子だ。

 圭太が掛ける言葉を考えようとした矢先、初葉が元気良く席を立つ。

「じゃあさ! 今から、アタシ達と一緒に練習しようよ! ここね、いろんなゲーム置いてあるんだよ!」

「え……? ……いいの?」

「もっちろん! ね、お兄ちゃん?」

「もちろん、いいけど……」

 当たり前のようににっこりと笑顔を向けられ、思わず苦笑。いつの間にか、すっかり初葉に仕切られてしまっている。

「初葉……ありがとう! 最初は怪しさしか感じなくてこのまま帰っちゃおうかと思ったけど、勇気出して中入ってみて良かった~!」

「ええと……入りづらい外観ですみません……」

 一応いただいたご意見は上司である玲にもフィードバックしておこうと思う。……改善されるかどうかはともかく。

「それじゃ、早速やろやろ! ここね、いろんなゲーム置いてあるんだよ! どれにする?」

「あ、じゃあ、スター取って無敵になるレースゲーム! あれがいい?」

「……お兄ちゃんもそうだったけど、なんでみんなゲームのタイトル言わないの?」

「初葉。そこは触れちゃいけないところだから」


◆◆◆


 圭太達にお礼を言って、莉々華は店を後にする。

 帰宅した彼女が目にしたのは、玄関に置かれた兄の靴。


(お兄ちゃん……帰ってきてるんだ)


 こくり、と小さく唾を飲み込む。

 一度自室に戻り、着替えて。向かったのは、ここ数年めっきり訪れることがなくなっていた、兄の部屋。


「…………っ」


 数秒、扉の前で逡巡。『やっぱりやめようかな……』と弱気になりかけ、それを振り払うようにブンブンと首を振る。

 ドアを叩く音は、思ったよりも響いた。部屋の中で、誰かが立ち上がる足音がする。ガチャリ、ノブが回って、ドアが開く。

 驚いたようにこちらを見る兄の顔を、真っ直ぐ見つめ返して。彼女は数年ぶりに、その『呼び名』を口にした。


「あ、あのさ……一緒に、ゲームしない!? ……お兄ちゃん!」


◆◆◆


 ――そしてそれから数日後。再びお店を訪れた莉々華に、圭太と初葉は「どうだった?」と一言。当然、良い報告を期待していたのだったが。


「それが……なんとかゲームには誘えたんだけど、あんまり仲良くできなくて……」

「ええー!? ど、どうして!? なんかあったの!?」


 落ち込む莉々華の横で、初葉がおろおろ、あたふた。


「やっぱり、強くないと楽しくなかった? 全然勝てなかったとか……?」

「ううん……。確かに、全然勝てなかったのはその通りなんだけど、久しぶりにお兄ちゃんが一緒に遊んでくれて、すごく楽しかった……楽しかったんだけど」


 むむむ、と。落ち込んでいたはずの莉々華の眉が、次第に不満そうにつり上がっていく。


「なのに! 私が勝ててないからって、お兄ちゃんがわざと負けたりするから! そりゃ私下手だけど、ちょっとずつ上手くなってたのに!! あのまま普通にやっててもいつかは勝ったのに!! なのに勝手に!! お兄ちゃんが!!」


 よほど悔しいのか、莉々華はテーブルの下で地団駄を踏んだ。


「で、でも、お兄ちゃんも、りりちゃんが楽しめるようにってやってくれたんじゃ……」

「それはわかってるけど!! 嬉しいんだけど!! でも悔しいものは悔しいんです!!」


 両手握り締めて叫ぶ莉々華は、言葉通り嬉しさ半分、悔しさ半分という感じ。自分を気遣ってのこととはわかりつつも、『手を抜かれた』という事実が、彼女のプライドを刺激してしまったようだった。


「ど、どうしようお兄ちゃん……!? もしかして、こないだのアドバイス、役に立たなかったんじゃ……!」

「……いや。そうでもないんじゃないか?」

「へ?」

 小声で耳打ちしてくる初葉に、「ちょっと見てみろ」と促す。

 そこには。


「ぜーったいこのままじゃ済まさないです!! 次こそ実力でお兄ちゃんに勝って、『すごいな莉々華!』ってお兄ちゃんに褒めてもらうんですから!! 練習あるのみ!!」


 むんっ、と拳を突き上げる莉々華は、端から見てもやる気十分。さっきまでの落ち込んだ様子はもうどこにも残っていない。

「というわけで、今日は特訓をお願いしに来ました! 練習、付き合ってください!」

「うん、もっちろん! ね、お兄ちゃん!」

「だから、なんで初葉が先に答えるんだって……。いや、もちろん、いいんだけどさ」






Fin

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「好きすぎるから彼女以上の、妹として愛してください。」カクヨム短編 著者:滝沢慧 イラスト:平つくね/ファンタジア文庫 @fantasia

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