第31話 あらやだ! みくちゃん、電話鳴ってるわよ~?

 それからも私はヨシエさんの指導の下、少しずつ料理を学んでいった。あの肉じゃがも意外なことにまぁまぁ美味しかった。


 だけど、テレビとかで見るような、お豆腐を手の上で切るとか、リンゴをくるくる回しながら皮を剥いたりはまだ出来ない。ゆっくりなら、ざく切り、ってやつが出来るようになった程度である。


 ヨシエさんが言うには、


「手の上でお豆腐? お味噌汁に入れるんなら、手でちぎりながら入れても良いのよ。――見た目? そんなものお腹に入れば一緒一緒!」

「リンゴの皮剥き? そんなの先に4つくらいに切ってからで良いじゃない。そんなにくるくる回してペタペタ触ってたら温くなっちゃうわよ」


 とのことらしい。


 そして、スーパーの野菜コーナーには、例えばこないだの『お手軽に煮物セット』だけではなく、『カット野菜』なんて便利なものがあることも知った。てっきりあれってそういうサラダなのかと思ってた。


「こういうのを使ってるうちに自然と料理のハードルが下がって、もうちょっとやってみようかなって思うようになるわよ。それに、子どもが出来たらね、ちまちま料理なんかしてらんないんだから」

「はぁ……、まぁそうなんでしょうけども」


 子ども?

 ていうか、私まだ結婚すらしてませんけど?


 あれから結局、コウちゃんとは会っていない。

 こないだみたいに偶然ばったり、ってこともない。

 私から連絡してみようかな、って思ったこともあるけど、でも何となくまだその時じゃないような気がしたのだ。


 もうちょっとまともなものが作れるようになってから。

 もうちょっと部屋が片付いたら。

 

 そんな風に考えて。だけど本当は、自分から連絡するのががっついてるみたいで恰好悪くて、待ってただけなんだけど。


 そんな時だった。


 いつものようにヨシエさんが寝転がってテレビを見てて、私はコーヒーでも淹れようかなって立ち上がって、そんで、ヨシエさんが「あたしにも~」なんてこっちを見もしないで言ったりして、くそババァなんて心の中で思ってる時だった。


 ぴろぴろりん、って私のスマホが鳴った。


「みっくちゃ~ん、電話鳴ってる~」

「あー、たぶんメールですね。ほっといてください」


 なんてそんなやりとりをして、5分後くらいに見たそれは、


『しばらく海外に行くことになりました。』


 という、コウちゃんからのメッセージだった。


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