第30話 あらやだ! 薄味にしときゃごまかせるわよ~!

 ていうか、ウチにはアルミホイルなんてないけどね。ヨシエさんが探しても見つからないはずだよ。


「ま、これも勉強よねぇ」


 鍋は地獄の釜のようにごぶごぶと煮えている。


「みくちゃん、そこのボウルに半分くらい水入れて。――はいはい、それじゃ、ここに置いて。それから、お玉ね。掬うわよ」

「えっ、じゃ、じゃあ火を止めて……」

「ダメダメ。いまこの強火なのが良いのよ。強火だと、ほら、こうやってアクが集まるから。さ、掬う掬う」

「は、はいっ」


 そーっと、茶色い泡を掬う。何だ、意外と簡単。ていうか、ちょっと面白いかも。


「はい、掬ったやつはこのボウルね」

「わかりました」


 そんな作業を繰り返して。

 

「ま、こんなもんでしょ。上出来上出来。さーって、味付けねぇ」

「うぅ、難しそう……」


 冷蔵庫から麺つゆを取り出す。ねぇ、ほんとにアンタで良いの? 煮物ってみりんだのお酒だのそういうのじゃないの?


「じゃ、入れちゃいましょ!」

「そんないきなり! 全部? 全部ですか?」

「さすがに全部はまずいわねぇ。とりあえず、『め、ん、つ、ゆ~』って言いながら、入れて」

「麺つゆって言いながら?」


 え? 私、騙されてない? 大丈夫? このおばさん。


「そうそう。それでね、出す量はー、ちょろちょろくらい」

「ちょろちょろで、め、ん、つ、ゆ~?」


 とぽぽ、と麺つゆを注ぐ。


「よしよし。肉じゃがは、甘いのが好き? それともしょっぱいの?」

「甘いの、ですかねぇ」

「ほいほい、それじゃお砂糖いっときましょ。この量ならスプーンで山盛り1杯ね」

「そ、そんなに……?」

「大丈夫大丈夫~♪ 軽ーく混ぜて味見して、ちょっと薄いかな? って思ったら、オーケーよ」

「薄くて良いんですか? 私濃い方が好きなんですけど」

「馬っ鹿ねぇ、みくちゃん。煮込むんだから、水分飛ぶでしょ?」

「あっ、そっか」


 確かに、と思っているとヨシエさんは「とっておきの裏技伝授してあげる」と言って立ち上がった。


 えっ、なになに。裏技? 


 ちょっと期待して、顔を近づける。するとヨシエさんは、えっへんとばかりにその豊満な胸を張って、高らかに言い放った。


「薄くなりすぎた時は、『あなたの身体を思って薄味にしたの』、しょっぱくなっちやった時は『ご飯が進むように』、って言葉を添えれば良いのよ! アーッハッハッハ!」

「……へ?」


 裏技っていうか、良いように言っただけじゃん!!


「先に言ったもん勝ち~」


 ええい、くねくねと身をよじるな!!

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