第27話 あらやだ! もうお役御免じゃないかしら~?

 その翌日、ヨシエさんは顔を出さなかった。


 別に寂しいとかそういうのは全然ないけどね。ないけど、まぁ、そろそろ煮たりとか焼いたりとか、包丁の使い方を聞こうかなーって思ってたっていうか。


 だから早く来てよ、ヨシエさん。私今日休みなんだから。


 ヨシエさんの好きなおせんべいと、今日挑戦するつもりの肉じゃが用のお肉と野菜――といっても、野菜の方はすでに皮を剥かれている『お手軽煮物セット』だけど――を買って来たのに。


「煮物の味付け? そぉーんなの麺つゆ使えば良いのよぉ」


 そう言ってたから、ちょっと重たかったけど、麺つゆも買って来たのに。


「ヨシエさんがいないなら、肉じゃがなんて作れるわけないじゃん……」


 と、材料を袋から出しもせずにそのまま冷蔵庫に突っ込んで、私は結局肉じゃかを諦め、テレビをつけっぱなしにして、そのまま寝てしまったのだった。



「――ちょっとぉ、こんなところで寝てたら風邪引くわよ?」


 と、聞き覚えのありまくるその声で飛び起きる。


「よ、ヨシエさん!?」


 いつも通りのあの恰好で、ヨシエさんは、てぷてぷとしたお腹をてんてんと叩きつつ、「はい、ヨシエさんです!」なんて言って笑っている。


「き、昨日は来ませんでしたね。別に来なくても全然良いんですけど、わ、私は」


 モゴモゴと最後の方を誤魔化しつつそう言うと、ヨシエさんは、何だか少し寂しげに目を伏せた。


 えっ、何。こんな顔、初めて見るんですけど。


「そろそろかな、ってずっと思ってたんだけどね」


 やっぱり初めて聞くような、何だか弱い声だ。嫌な予感に冷や汗が流れる。もしかして、もしかして、って心臓が早鐘を打つ。


 もしかして、もうすぐヨシエさんと会えなくなるんじゃ……?


「そろそろお役御免なんじゃないかな、って」

「えっ!? ちょ、そんなお役御免だなんて」

「うすうす感づいてはいたんだけど」


 感づくとか出来るんだ!? じゃなくて!


「もう、古いのよね……」

「そんなこと!」


 私にはまだヨシエさんが必要なんです!

 

 って、言いたくないし、認めたくないけど!


 目を合わせるのが怖くて、私はぎゅっと手を握りしめ、俯いていた。


「一昨日の晩、お父さんと話し合ってね、それで――」


 さよならすることにしたの。


 俯いていた私の耳に、そんな言葉が聞こえた。



 

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