第28話 あらやだ! おせんべとお茶、もらえるかしら?
「さよならなんて言わないで、ヨシエさん!」
私は思わず叫んだ。
「みくちゃん……?」
「嫌だよぉ、さよならなんてぇ!」
「あらあら、泣かないのよ、みくちゃん。よしよし、どうどう」
「だ、だって……うえええぇ」
えぐえぐと泣いている私の頭を、ヨシエさんは優しくぽんぽんと叩き、でもね、と言った。
「さすがに限界なのよ、ブラウン管は」
「――は?」
「チューナーつけて見てたんだけど、調子悪くって」
「え?」
「それでね、昨日電気屋さん行って、お父さんにつけてもらったんだけど、やぁーっぱり違うわねぇ! 何ていうの? クリア! マサハルがクリアなの!」
「……はぁ」
「何とかケーってやつらしいんだけど、すっごいのね! 毛穴も全部見えちゃう感じっていうの? いやーん、マサハルのそんなところまで見えちゃうなんて、恥ずかしいわぁ~、アーッハッハッハ!」
何とかケーって、4Kのことかな。へぇ、ふぅん、そうなんだ。
「何かもう勢い余って、TATSUYAで見たかった旧作借りまくっちゃったのよ! それで昨日来られなくって! ごめんなさいねぇ、寂しかったでしょっ!?」
このこのぉ~、とぷくぷくの指で、私の頬――には届かないため、二の腕の辺りをつんつんしている。
「でもねっ、安心して、みくちゃん!」
「は? 何がスか」
何かもう一気に力が抜けたわ。
「テレビは新しくなっても、ちゃーんとここには来るから!」
「はぁ……いや、別に来なくて良いス」
「そんなツレないこと言わないのよ、ほら、またお料理教えてあげるしっ! やっぱりテレビはおせんべかじりながら大画面でワイワイ見ないとねぇ~! アーッハッハッハ!!」
高らかに笑い、いつものように、ぶふぉ! とおならを一発。
私、何でこんな人(人?)が恋しくなったんだろう。馬鹿みたい。
でも、まぁ、料理を教えてくれるのはありがたいけど。
「まぁ、あんまり騒がしくしないでくださいね。いまお茶とおせんべい持ってきますから」
よっこらせ、と立ち上がれば、ヨシエさんは「よろしく~」と言って、定位置にごろりと寝転がった。
見慣れた光景だ。
まぁ、良いけどさ。
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