第26話 あらやだ! それなら……まぁ合格かしらね!
「最初に会った時のみくちゃんはね、コンビニで、かごいっぱいにお惣菜入れててね? それに、コンビニのポテチなんて
ちょ、ヨシエさん?
わざわざ立ち上がって熱弁ふるってくれるのは嬉しいけど……いや、よく考えたら大して嬉しい内容でもなかったけど、それ、コウちゃんには届いてないからね?
「だけどねぇ、いまは、お惣菜はお惣菜でもタニヤマートの安いやつだし、それも値引きになってから買うしね? カレーを作ろうともしたし、いまだってほら、キャベツとかちぎったり出来るようになったんだから!」
もう良い、ヨシエさんもう良い。コウちゃんに届いてないとはいっても、何かもう恥ずかしいし。
それにちょっと……涙が出そうだから。
「そんなことないよ、みくちゃん」
と、目の前にティッシュを差し出される。うげ、そっち側ってさっきヨシエさんがお尻くっつけた方じゃない? まぁ良いけど。ていうか私泣いてたんだ。
「他の人と比べなくて良いんだよ、みくちゃん。前の自分と比べれば良いんだよ」
「前の私と?」
「前のみくちゃんは、トイレを汚してもそのままだったし、読んだ本はその辺に投げてあったし、ご飯は全部コンビニのお弁当かお惣菜だったじゃない」
「うっ……確かに」
いま思うと相当ヤベぇな、私。
「だけど、トイレもきれいになってたし」
それはヨシエさんがぎゃーぎゃーうるさいから。
「雑誌も落ちてないし」
それはこないだ旦那さんが滑って転んだから。
「それにほら、このキャベツ! 全部自分でやったんだよね?」
ちぎって塩振ってごま油かけただけだけど。
「このままじゃヤバいって気付いたことも偉いと思うけど、案外、気付いても行動しない人っていたりするよ。でも、みくちゃんは動いたじゃないか」
「ま、まぁ……、うん」
コウちゃんは、そう言うと、うん、と力強く頷いて立ち上がった。
「僕、もう帰るね。僕も頑張らないと」
「頑張る? 何が?」
そう尋ねると。
「いいや、こっちの話だよ。キャベツありがとう。みくちゃん、またね」
「え、うん、また……」
また?
また会ってくれるのかな?
だったら次こそはもっと良いとこ見せないと。
コウちゃんを玄関まで見送って居間に戻ると、ヨシエさんは相変わらずお尻をこっちに向けてイワネ屋を見ていた。
だけど一言、
「まぁ、『合格』かしらね」
と呟いたのが聞こえた。
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