第22話 あらやだ! あたし水仕事が一番嫌なのよね。

 ヨシエさん曰く、とにかくごま油を使っておけば男の人は美味い美味いと食べてくれるのだそうだ。いや、男の人はって、さもさも色んな男に食わせたみたいに言ってるけど、旦那さんだけでしょ?


「ごま油と、塩昆布ね」

「ふんふん、塩昆布もなんですね」

「そ。キャベツとかね、キュウリとかね、それをビニール袋に入れるのよ。ごま油と塩昆布も入れて揉み揉みするわけ」

「ビニール袋ぉ~? 何だかなぁ~」

「何だかなぁ、って何よ」

「いや、何か、ビニール袋ってこう、ごみとかそういうのを入れるイメージっていうかぁ」


 いや、スーパーに行けば野菜やらお肉やらをビニール袋に入れてくれるけど、何ていうかなぁ、それにしたって後で洗ったり、パックの中に入ってたりするやつじゃん。口に入るものをそのまま入れるのって何か衛生的にどうなのって。


 するとヨシエさんは目を細め、そのぷくぷくとした人差し指を私の目の前で振ってみせた。ちっちっちっ、なんて舌まで鳴らして。くそ腹立つ。


「ほんとみくちゃんはものを知らないわねぇ」


 何よ。事実だけどむかつくわぁ。


「食品OKのビニール袋があるのよ。みくちゃんは見たことないかもしれないけど、そのまま煮込んだり出来るやつもあるんだから」

「へぇ~」


 知らなかった。

 だってビニール袋って、私の中では商品詰めたりするやつ、っていうか。その商品にしたって店の中で埃被ったりしてるわけじゃん?


「ていうかもしかしてみくちゃん、コンビニ袋を使い回すとか考えてない?」

「え? 違うんですか?!」

「アーッハッハッハ! そりゃあ『何だかなぁ~』になるわけよねぇ。それ専用の買うのよ」


 なぁんだもぉ、びっくりしたわ。


「ビニール袋は便利よぉ? 浅漬けを作る時とか、お肉に味を染み込ませる時とか、そしたらほら、洗い物少なくて済むじゃない?」

「な、成る程……」

「主婦を長ーく続けるポイントはね、あたしの場合、如何に楽をするか、なの」

「楽をするか?」

「そ。だぁって、あたしの性格からして、ちょっとでも面倒になったらやらないものぉ~。アーッハッハッハ!」


 相変わらずキャベツをぱりぱりとかじりつつ。

 ちょっと、これマジ美味いな。やるじゃんごま油と塩。


「それにほら――」


 と、少しだけ声のトーンを落として、両手をこすり合わせる。


「水仕事嫌いなのよあたし。だって手が荒れちゃうでしょ? この白魚のような、お・は・だ・が!」


 知るか! トドみたいな身体してからに!!


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