第19話 あらやだ! ウチの亭主ったらほんとにねぇ。

 旦那さんの存在がオープンになってからというもの、私達の話題にちょいちょいと旦那さんが登場するようになった。


 というと、旦那への愚痴かなって思うところなんだけど、案外そうじゃない。


 例えば、稼ぎが悪いとか、加齢臭がどうだとか、そういうことではない。

 シャツを裏返しのまま着ていただとか、靴下が左右違う(と言っても違いはワンポイント刺繍部分くらいしかない)だとか、お弁当を忘れて行ったから、慌てて届けに行った、というような、何とも微笑ましいおっちょこちょいエピソードなのである。


 正直ちょっと拍子抜けした部分はある。


 だって、バイト先のパートさんは、旦那さんの話をするといえばイコール愚痴なんだもん。稼ぎが悪いからパートに出る羽目になったとか、洗濯物は分けて洗わないととか、寝室は別じゃないと寝られたもんじゃないとか。


「ヨシエさん、旦那さんに不満ってないんですか?」


 そう聞いてみた。

 そりゃあの旦那さんは優しそうだし、ていうか実際優しいんだろうけど、でも、あんないかにもっておっさんと一生添い遂げられるかと言われたら正直厳しい。せめてもうちょっと……体型とか、ヘアスタイルとかに気を遣ってさぁ。まぁ髪はどうにもならないかもだけど。


「は? 不満?」


 ヨシエさんは、相変わらずおせんべいをばりばりとかじりながら、お茶をごくごくと飲んでいる。


「例えば、稼ぎとか」

「稼ぎぃ? お父さんアレでそこそこの企業の係長だからね。結構もらってるのよ?」

「えぇっ!? 係長?! 窓際族じゃなくて?」

「アーッハッハッハ! みくちゃん、人は見かけによらないのよ。ていうかね、じゃなかったら、あたしこんなのんきに主婦してないわよ。息子も大学までやったんだから」


 ま、まじかよ。旦那さんすごいじゃん……。


「でもほら、えーっと、例えば、加齢臭とか?」

「加齢臭?」

「洗濯物、一緒に洗うの嫌! とか」

「めんどくさいじゃない、分けるの」

「え?」

「洗剤も、お水もその分余計に使うのよ? もったいない。あたしに言わせりゃね、イチイチ分けてる人っていうのは、あれ、暇な金持ちね」

「暇な……金持ち……」

「ていうか、日本の洗剤は優秀なんだから、何でもかんでも一緒に洗ったら良いのよ!」


 まぁ確かに、いまの洗剤ってすごいけどさ。


「あ、でも、あたしのブラジャーだけは別ね、別。あれ、たっかいんだから! アーッハッハッハ!」


 お前!!

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