第18話 あらやだ! 昔はこうじゃなかったのよぉ?!
旦那さんがやって来たその翌朝、今度はヨシエさんが単身でやって来た。
「ごめんねぇ、ウチのお父さんが」
なんて言いながら。
「いえ別に」
別に旦那さんはうるさくないし。私には小さすぎたけど、手土産まで持参してくれたし。
「旦那さん、優しそうな人ですね」
「優しいっていうか、気が弱いっていうか」
「家事とか全然出来ないって」
「そうそう、そうなのよ。ネクタイもしめられないのよ。アーッハッハッハ!」
勤続何年、何十年か知らないが、いまだにネクタイをしめられないってどういうことだろう。本当は出来るのに甘えてるんじゃないの? と思ったけど、わざわざここに探しに来てまでしめてもらったのだ、本当に出来ないのだろう。
「でもねぇ、みくちゃんびっくりすると思うけど。――ぃよっこらせっと、はい」
いつものように寝転がり、はい、と言いながら本日一発めのおならを放ったヨシエさんは、ポケットから写真を数枚取り出した。
「これね、若い頃のお父さん」
だから、小さいんだって! 見えるか!!
とりあえずスマホのカメラを起動させ、ズームしてみる。ちょっとぼやっとしているけど、何となくは見えた。
「……旦那さん? これ?」
「そ」
何これ、いまと全然違うじゃん!
髪ふさふさだし、メタボじゃない!
まぁ、髪型と服装がめちゃくちゃ古くさいけど、それは時代だから仕方ないとして。
いや、これってこの時代ではかなりイケメンの部類なのでは。
「恰好良いでしょ」
ふふん、って、何よ偉そうに。
「ま、まぁ、そこそこイケてるんじゃないですかね」
悔しいけれども認めざるを得ない。ここで大したことないとか言っちゃったら、それはそれで私の見る目がないみたいな感じになるし、第一、あの善良な旦那さんにも悪い。
えーでもどう考えたってヨシエさんにはもったいなさすぎるっていうか、何でこんなおばさんを……ってまぁ出会った頃はおばさんじゃないけど。
解せぬ……。
そして、あな恐ろしや、時の流れ……。
そんなことを思いながら、ぼやけた写真をカメラ越しに見つめていると――、
「あらやだ、まちがえた! これヒデキじゃない!」
「は?」
「これ、ヒデキのブロマイドよぉ! お父さんは、こっち!」
と、もう一枚を差し出す。
だから、小さいんだって!!
……うん、髪もふさふさだし、スラッとはしてるけど。
うん、あんまり変わらないかな――……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます