第17話 いやはや、家内がお世話になっております……

 ご挨拶が遅くなって申し訳ありません、なんて言って、その日の夜遅く、ヨシエさんの旦那さんは再びやって来た。


 ご丁寧に手土産まで持参して。


「ええと、これは……?」

「あの、駅前の『焼き鳥 てっぺい』わかります? あそこの『お持ち帰り晩酌セット』です。ただ、お酒は各自で用意する感じなんですけど」

「いやまぁ、それは見ればわかりますけど……」


 問題はそこじゃない。


 手土産として晩酌セットというのもどうなのか、という部分もあるけれども、それはそれで問題ない。てっぺいの焼き鳥は大好きだし。


 そうじゃない、問題は――、


 小さい、というだけだ。

 そりゃそうだよ、だってこの小さいおじさんが持ってきたんだから。


 えーでもこれ、てっぺいの焼き鳥だよね? 小さい人にも対応してんの? 知らなかったー。


「とりあえず気持ちだけもらっときます。これは旦那さんが今夜の晩酌にでもどうぞ」

「えっ、よ、よろしいんですか!」


 うわうわ、めっちゃ嬉しそう。そうだよね、焼き鳥にビールとか最高のやつだもんね。


「あの、ていうか。毎日奥さん来てるんですけど、それについてはどうお考えなんですかね」


 そう尋ねると。

 旦那さんは、深々と頭を下げた。立派なバーコードだ。スキャナーでピってしたら、いくらって表示されるんだろう。


「家内が何かご迷惑をおかけしておりますでしょうか」


 ご迷惑……まぁ、迷惑っちゃ迷惑かな。うるさい、っていう。でも、別に食費がものすごくかかるわけでもないし、部屋を荒らされてるわけでもない。何ならカレーまで作ってくれたし。


「別に、ただうるさいだけでそこまで迷惑では」

 

 そう返すと、旦那さんは「うるさい」というところで「ですよねぇ」と呟いた。


「むしろ旦那さんの方が困るんじゃないですか? 家事とかさぼってません?」

「あぁ……いいえ、そこはしっかりやってくれています」

「ほ、ほんとですか!?」

「はい。恥ずかしながら私がそういうのを一切出来ないものですから……」


 いやはや、と言いながら、小さなハンカチで汗を拭き拭き。たぶんそれもちゃんとアイロンをかけているんだろう。しわしわじゃない。


 何よ、ヨシエさん意外とちゃんとしてるんじゃん。


「アーッハッハッハ! アーッハッハッハ!」


 ただ、そのヨシエさんは相変わらず寝転がってテレビを見てるけど。

 亭主にケツを向けて。おならも数発放って。


 旦那さん、あなた本当にそんなんで良いの?

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