第15話 あらやだ! 違いくらいわっかるわよぉ~!!

「みくちゃんおかえり~。何飲んでるの?」


 バイトが終わり、コーヒーショップでコーヒーを買って帰ると、いつも通りにヨシエさんがいた。

 白あんみたいな色のスウェットに、あずき色のスカート。校章らしきワンポイント入りの白ソックス。いつものヨシエスタイル。何着あるのよ、その組み合わせ。


「コーヒーですけど」

「あらっ、良いわね。あたしにも一口飲ませてちょうだい」

「えぇ? 何もこれ飲まなくたって、いま淹れますよ」


 言っとくけど、このコーヒー、一杯500円もするやつなんだから。おばさんに飲ませるなんてもったいない。


「インスタントじゃなくて、ちゃんとドリップしたやつね」

「はいはい」


 

 と、返事はしたものの。

 どうせわかんないでしょ。ドリップだろうとインスタントだろうと。


 そう思ったので、ちょっと試してみることにした。

 お湯を沸かし、マグカップを2つ用意して、個包装のドリップコーヒーとインスタントコーヒーをそれぞれ淹れる。そして、インスタントの方をヨシエさんのカップに注いだ。



「はい、どうぞ」

「あらっ、良い香りね~」


 くんくん、と鼻をひくつかせ、何やらそれらしい顔をする。ふっふっふ、騙されてる、騙されてる。


 さぁさぁ「やっぱりドリップしたやつは違うわねぇ」とか言ってみなさいよ。種明かししてやるんだから。ぐひひ。

 

「最近のインスタントは美味しくなったわよね」


 ずずず、とコーヒーを一口啜ったヨシエさんがポツリと言った。


「えっ?」

「おばさん舐めんじゃないわよ」


 動揺している私に向かって、ヨシエさんはニヤリと笑い、キッチンの方を指差した。


「丸見えよ、みくちゃん」

「はっ! しまった!!」


 調理台の上には、マグカップ×2とインスタントコーヒーの瓶が出しっぱなしになっている。このだらしない性格をどうにかしないことには完全犯罪も無理だわ。


「ダバダ~、ダ~バ、ダバダ~、ダバダ~♪」


 どこかで聞いたような謎の歌を上機嫌に歌い、ヨシエさんは喉を鳴らしてコーヒーを飲んだ。お代わりを要求してきたので、ドリップした方を渡すと。


「うん、やっぱりドリップの方が美味しいわぁ」


 な、何でわかるの!?

 

「みくちゃんはそそっかしいわねぇ~♪」


 と、私の手を指差した。


 あっ! 私ドリッパー持ったままじゃん! 馬鹿!


「違いのわかるおばさん、田端ヨシエ58歳」


 と、キリッとキメ顔。むかつく。


 ていうか、ヨシエさんって58歳なんだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る