第12話 あらやだ! 料理なんてどうにでもなるわよ!

「料理を教えてほしい?」

「……はい」


 相変わらず寝転がっておせんべいとテレビのコンボをキメているヨシエさんは、私の一斉一代のお願いを、やっぱりそのままの姿勢で聞いていた。


「みくちゃんが?」

「はい」

「どうして?」

「どうして、って……。そりゃあだって、出来た方が良いじゃないですか」

「えー? だって、いまはほら、『混ぜるだけのヤツ』とかあるじゃない」


 えっ、ちょっと待って。

 ヨシエさんの中で『混ぜるだけのヤツ』って料理にカウントされないの?


「そ、その『混ぜるだけのヤツ』って、そんなに簡単ですか?」

「簡単よぉ? だって、切って、炒めて、混ぜて終わりよ? カレーより簡単じゃない」


 いやいやいやいや。

 ほらね。

 あるじゃん。

 『切る』んじゃん。

 てことは、皮を剥いたりもするんじゃん?


「みくちゃんだって、カレーくらいは作れるでしょ?」

「え、ええと。ポンカレーなら」


 そう答えると、ヨシエさんは何だか可哀想な人を見るような目で私を見た。その上で、


「……いまのレトルトって美味しいわよねぇ」


 などと、フォローまでしてくれたのである。これはこれでかなりのダメージだ。


「よっしゃわかった! みくちゃんのためにヨシエさんが一肌脱いだろ!」


 と、いきなり関西弁になって、立ち上がり腕をまくった。良かった、いつものヨシエさんなら本当に『一肌』脱ぐところだ。


「そんじゃ、カレー作りましょ。ルーはあるわよね?」

「……ないです」

「あらやだ! カレーのルーは常備しておかないと!」

「常備してたって、そんなに毎日とか作らないじゃないですか。傷んじゃうんじゃ」

「傷まないわよぉ! カレーって、インド料理でしょ? あんなあっついところの料理なんだから、タフなのよ!」


 そんなわけあるかい、と思いつつ、はいはい、と聞く。今回ばかりは黙って従うしかない。


「それにほら、ルーはね、ちょっとした時にも使えるのよ」

「ちょっとした時?」

「ほら、お味噌がなくて味噌汁が作れない時とかにね、もういっそカレースープにしちゃうとか。助かったわぁ、こないだのお味噌汁の具、玉ねぎだったのよ、セーフ! アーッハッハッハ! 油揚げも入ってたけど!」


 おい、結局あれカレーにしちゃったのかよ。


「料理はね~、アイディア次第でどうにでもなるのよねぇ~」


 ……ヨシエさんの旦那さんって、よっぽど心が広い人なんだろうな。


  


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