第11話 あらやだ! この人のところにも行ったわよ!

「アーッハッハッハ! アーハハハハ! ぃやぁ~だもうっ! 閉店ガラガラ! アハハ!」


 相変わらずヨシエさんは寝転がってテレビを見ている。

 リサイクルショップで買って来たゴルディアンファミリーの小さなカップにスポイトで淹れたお茶をごくごくと飲みながら、ヨシエさんは、砕いたおせんべいを食べている。


 私はある『恐ろしい可能性』に気付いてしまった。


 さっき、南場なんば君が帰った時、ヨシエさんが放ったあの言葉である。


「だけど、男の子って、?」


 男の子は、おばさんにならない。

 男の子は。


 だけど、女の子は、いずれおばさんになる。

 でも、ヨシエさんを見てると思う。

 女だからって、皆が皆こういうおばさんになるわけじゃない。

 芸能人と比べたってどうしようもないけど、だけど、いつまでもきれいな人もいるし。


「アーッハッハ……? 『ブフォ!』 ……ぃやぁ~だ、出ちゃった! アハハ!」


 少なくとも、皆が皆、笑いながらおならをするようなおばさんになるわけじゃない。


 ヨシエさんは、寝ながらお尻の辺りをパタパタと手で仰ぎ、最早一体何に対してなのかわからないが、大笑いしている。閉店ガラガラがそこまで面白いとは思えないから、たぶん、おならをしちゃった自分自身に対してなんだろうな、と思った。


「ヨシエさん」

「アハハ! ……んあ? なぁに、みくちゃん」

「ヨシエさん、もしかしてあなたは未来の私の姿なんですか?」

「はぁ? なぁに言ってんの?」


 ヨシエさんは面倒くさそうに首だけをこちらに向けている。そして、さらに、ブフォ! とおならを重ねた。いい加減にしろ。


「いや、何か……なんとなくですけど。でも、だから、私の前に現れたんですか?」

「知らないわよぉ。何か一定の周期でこういうのがあるのよ、あたし達」

「一定の周期で……? じゃ、じゃあ、他に例えば誰のトコに行ったんですか?」


 そう尋ねると、ヨシエさんは、やっぱりちょっと面倒くさそうな顔をして、うーんと唸った。そして、ちらりとテレビを見て――、


「あ、ほら、この人とか。あたし、30年前によく行ったわ」


 と画面を指差した。


 えっ? テレビに出てるような人? 有名人?! うっそ!


「って、柴田理恵じゃないですか!」


 つい声を張り上げると、ヨシエさんは、「なぁ~んちゃってぇ~」と言って、もう何発目かわからないおならをした。


 マジふざけんなよ、ババア!!

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