第10話 あらやだ! その子、ボーイフレンドなのぉ?
「今日、森川ちゃんのトコ遊びに行って良い?」
バイト先の同僚がそんなことを言ってきた。森川、というのは私のことだ。
同僚の
この場合、ヨシエさんってどうなるんだろ。あの人、気を利かせて席を外すなんてことはしないだろうけど、私以外の人間がいると消えるとか、そういうのはありそう。だってコウちゃんと住んでる時はいなかったし。
そんなことを考えて帰宅すると。
「あらっ、みくちゃん! ボーイフレンド?」
ヨシエさんがいた。
何だ、他の人がいると……とかそういうのはないのか。
じゃ、彼氏が出来てもずっといるんじゃん。ちぇっ。
私が露骨に嫌そうな顔をしたのを見て、南場君が、どうしたの? と不安そうに問い掛けてきた。
「いるのよ、おばさん」
「おばさん?」
「ほら、あそこ。小さいおばさん」
「えっ? どこ?」
指差す先には、こちらに――いや、南場君に向かって濃厚な投げキッスを放っているヨシエさんがいる。やめろ。
「ほら、そこそこ! いま南場君に色目使ってる! うわ、キモい!」
「ちょっと! キモいとか、みくちゃんてば失礼だわぁ。あたし昔は『ミス
「どこですか、その『寿通り』って!」
「地元地元~、地元の商店街っ」
「知るか!」
と。
とんとん、と肩を叩かれた。
振り向くと、南場君が何やら複雑な表情をしている。
「森川ちゃん、疲れてるんじゃない? とりあえず今日は帰るよ」
「えっ、南場君?」
帰らないで! 私の彼氏候補!!
「あらら、帰っちゃったわね、イケメン君。残念だわぁ~」
くねくねと身をよじらせてヨシエさんは残念そうな声を上げた。誰のせいだ。
「……ヨシエさんって、私以外の人には見えないんですか?」
去ってしまったものはどうしようもない。南場君はあれで案外口も固いし、私がおかしくなったなんて吹聴したりしないだろう。
「そんなことないわよ?」
ヨシエさんはさらりとそう言って、定位置であるタオルの上に寝転んだ。ただしテレビではなく、私の方を見て。これはこれで何かむかつく。
「だけど、男の子って、おばさんにならないじゃない?」
――は?
何? どういうこと?
混乱して固まっている私の前でヨシエさんはブフォッと見事なおならをし、「今日もばっちり」と訳のわからないことを言って、テレビを見始めた。
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