第10話 あらやだ! その子、ボーイフレンドなのぉ?

「今日、森川ちゃんのトコ遊びに行って良い?」


 バイト先の同僚がそんなことを言ってきた。森川、というのは私のことだ。


 同僚の南場なんば君は、年は私より下だけど、3ヶ月くらい先輩だったりする、なかなかのイケメンだ。


 この場合、ヨシエさんってどうなるんだろ。あの人、気を利かせて席を外すなんてことはしないだろうけど、私以外の人間がいると消えるとか、そういうのはありそう。だってコウちゃんと住んでる時はいなかったし。


 そんなことを考えて帰宅すると。


「あらっ、みくちゃん! ボーイフレンド?」


 ヨシエさんがいた。


 何だ、他の人がいると……とかそういうのはないのか。

 じゃ、彼氏が出来てもずっといるんじゃん。ちぇっ。


 私が露骨に嫌そうな顔をしたのを見て、南場君が、どうしたの? と不安そうに問い掛けてきた。


「いるのよ、おばさん」

「おばさん?」

「ほら、あそこ。小さいおばさん」

「えっ? どこ?」


 指差す先には、こちらに――いや、南場君に向かって濃厚な投げキッスを放っているヨシエさんがいる。やめろ。


「ほら、そこそこ! いま南場君に色目使ってる! うわ、キモい!」

「ちょっと! キモいとか、みくちゃんてば失礼だわぁ。あたし昔は『ミス寿通ことぶきどおり』だったんだから!」

「どこですか、その『寿通り』って!」

「地元地元~、地元の商店街っ」

「知るか!」


 と。

 とんとん、と肩を叩かれた。

 振り向くと、南場君が何やら複雑な表情をしている。


「森川ちゃん、疲れてるんじゃない? とりあえず今日は帰るよ」

「えっ、南場君?」


 帰らないで! 私の彼氏候補!!


「あらら、帰っちゃったわね、イケメン君。残念だわぁ~」


 くねくねと身をよじらせてヨシエさんは残念そうな声を上げた。誰のせいだ。


「……ヨシエさんって、私以外の人には見えないんですか?」


 去ってしまったものはどうしようもない。南場君はあれで案外口も固いし、私がおかしくなったなんて吹聴したりしないだろう。


「そんなことないわよ?」


 ヨシエさんはさらりとそう言って、定位置であるタオルの上に寝転んだ。ただしテレビではなく、私の方を見て。これはこれで何かむかつく。


「だけど、男の子って、?」


 ――は?


 何? どういうこと?


 混乱して固まっている私の前でヨシエさんはブフォッと見事なおならをし、「今日もばっちり」と訳のわからないことを言って、テレビを見始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る