8冊目

『現実逃避、させてよ…………』


ミノルだったら、何か私の味方になるような言葉をくれるだろうか。

この非現実的な場所に、ずっと居たい。


_____返ってきたのは、その期待を見透かしたかのような答えだった。



『…………残念だけど、此処は現実だよ』



えっ、と反射的に顔を上げる。


「君のことだから、きっとここが夢の中か何かだと思ってるんだろうけど……それは、違う」

どうして。此処が現実……?

私の思い込みもあるのだろうが、それは確かに期待と正反対の答えだった。

嫌だ。…………そんなこと言わないで。


「………いや、君にとっては、本当に夢の中かもしれないね。ただ少なくとも、僕………と君のお祖父さんにとっては現実なんだ」

「………どういう、事ですか」

動揺で震えている声でそう尋ねると、ミノルは一旦私から離れて、白い壁から何冊かのノートを取り出した。____どうやら、私が気づかなかっただけで引き戸式の棚があったらしい。これも曲線的で、遠くから見れば全く判らないほど壁に溶け込んでいた。


「これ。………全部で10冊。」

「………使われてるんですね」


手渡された10冊のノートの表紙には、見覚えのある整った字で文字が書かれていた。____一冊一冊、声もなく読んでいく。



「エンディングノート」


「日記」


「和子へ」


「千鶴へ」


「真人くんへ」


「幸多へ」


「梓さんへ」


「昴くんへ」



「唯月くんへ」



静かに全てに目を通し、9冊目を取って他をミノルに預けた。

_______彼が頷くのを確認して、ゆっくりと表紙をめくる。

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