7冊目

「あ、天の川。あっちは夏の大三角形。よく目立つし有名だよね」

「そうですね。七夕当日は、曇って見えないことが多いですけど……」

2人で張り付くように大きな窓から星空を眺めている。この建物が円柱型故に、窓のガラスもカーブがかかっているようだ。


「……あ、そうだ。それについてなんだけどね」

と、少年のように説明を始めていて、なんだか面白い。_____ちなみに彼が話していたのは、7月7日が七夕というのは新暦の日付らしく、本来の旧暦では8月に七夕があるという内容だった。先程から神話云々の話をしていて、興味はあるものの調べる頃には忘れていそうな事ばかりだったが、これは割と役に立ちそうだ。


_____それにしても、神話かぁ…………


そういえば、昔分厚い本を開きながら祖父に星について教えてもらった時も同じように神話を聞かされた気がする。大抵が星座の由来の話で、幼い頃の私には中々恐ろしいようなエピソードも遠慮なく話していた。


「………っていう話なんだよ。面白いでしょ」

「へぇ……詳しいんですね、こういうの」

思い出に浸っている間に長い説明は終わっていたらしい。ごめん、ミノルさん。


「まあ、好きだからね。現実をちょっと忘れさせてくれるような、綺麗な星空…………あ、別にあれだよ、現実が嫌いなわけじゃないよ」

慌てたように否定しているが、彼はあまり嘘がつけなさそうな顔をしているし_____見た目で判断するのもなんだが、どうやら本当らしい。



「………私はあまり好きじゃないですよ、現実」



「……そ、そっか」


あっ、と気付いた頃には遅かったようで、私の心の呟きはしっかりと漏れていた。


「………どうして?」

兄弟とか幼馴染のように、ずっと知っている人のような声色で尋ねられる。


「どうして、って…………。」

どうしてって言われても。こんな事を言っても変な奴にしか見られないし、いやでもミノルさんは大丈夫か、などと自問自答を繰り返す。


「良かったら、教えて」

「…………………だって」



だって、魔法も何もないから。


みんな楽しむ事を忘れているから。


______簡単に、大切な人がいなくなっていくから。



作り物の本でしか、私みたいなまだ未熟な子どもには冒険できない。



笑顔になる魔法も見れない。



もう行っちゃった人に会えないんだ。




『嫌なんです。…………現実逃避、させてよ………』




絞り出すような“私の理由”を吐き終えると、ミノルは微かに微笑んで口を開いた。

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