3冊目

「………み。………君。………おーい」


聞き覚えのない呑気な声で目が覚める。

「君、大丈夫?」「は、はあ……」

何が大丈夫なのか解らないまま、つい曖昧な返事をする。


「全く、ああいう斜面には気をつけないと。君みたいに勢いよく滑って転ぶのがオチだよ」「そ、そう……ですか………」上体を起こして見渡すと、ワイシャツを着た二十歳くらいの男性が微笑みながら此方に向かってきていた。


今まで自分が眠っていたらしい場所は、壁も床も真っ白、円形の随分と広い空間らしい。他に人影は見当たらないので、やけに声が響く。


その男が目の前にしゃがんでどこか親しげな表情で私の顔を覗き込むので、何を思ったのかどう考えても優先順位が違う筈の一つ目の疑問を尋ねてしまった。


「……斜面?」「そう。……覚えてないの?川底に頭でも打った?……まあ良いや。僕はミノル。よろしくね、藍ちゃん」私の返答を聞かずに話が進んでいく。「よろ……じゃないです!なんで、私の名前を……っていうか、ここは……!?」

次々に浮かぶそれらの問いかけには答えず、ミノルは唐突に話を変えた。



「藍ちゃんは、星って 好き?」



「っは……?…ほ……星……?………んまあ、一応……」「そうか、良かったよ」

正直、自分の発言にすら理解が追い付いていない。一度に伝わる情報量が多すぎる。より一層笑みを浮かべた彼は、考えることすら忘れた私をよそに、くるりと振り返った。



「これ、見て欲しいんだけど。」



差された指の方向には、いつの日か天文台で見たような______

____窓の奥に広がる星空と、キャンバスのように白くて大きな望遠鏡が在った。

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