2冊目
私達の前から姿を消してしまったのは、祖父だった。
何の前兆もなく、急性心不全で。いつも笑顔で、孫である私や弟、従兄弟によく構ってくれていて。星空が好きな私のために、いつか天文台へ行こうか、それとも望遠鏡でも買って何処かへ行こうかと話してくれていて。
____約束が果たされるのは、きっと何十年も先になってしまうのだろう。
思い出にふけりながらふと手を入れたスカートのポケットの中には、小銭入れ程の大きさの巾着が入っている。色が変わってしまった十円玉の固い感触が伝わる。安堵のため息をついたと同時に、再び自分を呼ぶ声がした。
「ねえちゃん、何1人で歩いてんの。……じいちゃんを探し求めて歩いてんじゃないかって、後ろの大人達が言ってんだけど」「……私は認知症か何かですか」
中身が変わっているなんてことはまず有り得ないのだろうが、特に何も考えずに巾着の口を広げる。同じく何も考えずに適当に返事をして、その後ろの大人達に呆れて再びため息をついた、その時。
「……?」手に持った巾着の____正しくはその中身の重みが無くなった。
鈍い音を立てて土手に転がり落ちたようだ。
「うわ、バチ当たるな」と呟いた弟をよそに、目を細めながら金属の感触を探る。「どこだ、どこだ……」しゃがみこんでいる間に、足音が近付く。「
____そして、その母の姿が、何か言おうと口を開いた弟の姿が、視界から消えた。世界が反転した。ちゃぽんという小さな音に気づいた頃には、限りなく緩やかに流れる冷たい感触に包まれていた。
。*.。*.。*
「………み。………君。………おーい」
聞き覚えのない、呑気な声がした。
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