第1話 孝行生
「直美、また明日」
「奈々もまたね」
直美と交差点で別れる。
ここは田舎。
友達と言ったら、直美くらいしかいない。
親は離婚して、私は母の方についた。
父親には、兄の桐人がついた。
そんなこともあって、私は無名な高校に行き、アルバイトで母を助けている。
母も元々は専業主婦だった。
離婚してから全てが変わった。
例えば、笑い方だろうか。
母は昔はよく目を細めながら笑っていた。
でも、今は瞬きしないまま真顔で笑う。
正直言って奇妙だ。
でも、そんな日常も直美がいることでなんとか頑張れた。
今日のアルバイトもそうだ。
田舎の小さいコンビニはほぼ常連客だけしか来ない。
近所のおじいちゃんおばあちゃんだ。
私はレジを担当していた。
育った環境の問題で金の計算は得意だ。
田舎のコンビニは閉店時間がある。
私の働いているコンビニは20時に閉まる。
その閉店時間ギリギリにきた若い男性がいる。
痩せ型でチェックの服でジーパンを履いていた。
乱れていて、ボーボーな髪。
帽子もつけていて、よく顔が見えない。
そんな容姿の彼は何も手に取らずにどこかに指を指す。
指先を辿ると唐揚げだ。
「唐揚げがお一つですか?」
私がそう聞くと、彼はただ頷きました。
私は見た目の風貌から、タバコを吸うのかなと思い、こう質問してみる。
「他にご注文はございませんか?」
その質問にただ頷いただけでした。
意外でした。
私は唐揚げをビニール袋に入れてお渡しすると、すぐに店を出て、車の中に入りました。
すると、少し口角が上がて、1番上にある唐揚げを爪楊枝を使って、口の中に入れました。
不覚にも、私はどこかでときめいていました。
手を動きが徐々に早くなっていき、口角もだんだん上がってきています。
食べ終わるとしょんぼりした唇でゴミ箱に袋ごと捨てて車に戻りました。
そして、コンビニから出ていきました。
すると、バックヤードから大きな声が聞こえます。
「奈々ちゃん、閉店の準備をして」
「分かりました」
今日こそ、私は働く意味を知りました。
仕事を終え、帰ると21時でした。
母は皿を洗っていました。
でも、いつもの母と違います。
ボソボソ何か言っています。
「もう、死にたい…もう、死にたい」
これを繰り返していました。お
私は母の肩に手を乗せます。
すると母は、皿を置き、後ろを振り返って2秒後に口を開けました。
「奈々、もう母親でいるのがしんどいの。この家から出て行って」
「どうしたの」
「いいから出て行って!」
私は母の言うことに従うしかありませんでした。
私のお気に入りの場所があります。
それは、近くの神社です。
山を少し登るとその神社はあります。
そこからみる夜景が特に綺麗である訳ではありません。
ただ、弟とよく階段を登って競争していたことが今も鮮明に覚えています。
私は長くなった足を器用に使って階段を登ります。
所定の場所でこの町の夜景を見ます。
今日も特に綺麗ということではありません。
しかし、私はなぜか泣いてしまいました。
泣いていると私は誰かから肩を叩かれました。
振り返ると、今日来ていたあの若い男性です。
私はなぜか彼の右腕を私の胸で挟み、私の両手は彼の首で囲むように握っていました。
私は彼についていき、彼は運転席に、私は助手席に乗りました。
彼はただ何も言わずに車を動かしました。
私はこれからどんな場所に行くか分かりません。
しかし、きっといい場所でしょう。
あの神社のように静かで、不意に涙が出てしまう場所に。
殺人鬼の一生 渋沢慶太 @syu-ri-
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