初恋

明日花

最初で最後の恋

物心ついた頃から周囲の人たちは未菜ちゃん家はご家族皆優しくて幸せな家庭で羨ましいと、そして私をお姫様の様だという

そんなの母が作ったものにすぎなかった

我が家の秘密を知る人は私を鳥籠のお姫様だという

羽ばたくことは許されない、羽を奪われてしまった鳥の様だと…


小さい頃は王子様に憧れていた

だって、王子様はお姫様を助けてくれると昔読んだ本に書かれていたから

だから昔の私はいつか王子様がここから連れ出して助けてくれると

そして二人は恋に落ちて幸せになれると信じて、それを希望にして生きていた

そんなのがただの夢見ているだけだと分かるのにはそう時間はかからなかった

それからはここからずっと逃げたいと思うようになった

母はいつも私が…未菜がいるから私は幸せになれなかったって、早く死んでくれと頼んでくる毎日

いつも決まって暴言や暴力を振るってきた後は死んでくれって頼んでごめんねって、殴ったのも本心じゃないからって言って泣いて謝ってきた

何度も…何年も両親が離婚することになる私が高校一年生になる春がくるまで毎日繰り返して…


いつもどこか寂しくて、愛することも愛されることも知らなかった

その苦しさを少しの間でも忘れるために私はいつも本の世界に逃げていた

本を読んでいる時間だけが私の幸せだと思える時間だった

だけどその幸せな時間は一時だけ

家にいれば母がいる

学校に行けば嫉妬や虐められた友人を庇ったことから始まった嫌がらせがある

だから永遠の幸せを手に入れるために私は中学二年生の夏、逃げ出した

解離性健忘症という心の病を患うことで

その病は心的外傷や私にとって強いストレスとなる出来事の記憶を思い出させない様に脳が私を守るためにしてくれるのだと担当医は教えてくれた

今の私は一浪して大学一年生として生活を送っていた

失った記憶は思い出してたが病の症状は何も出ていなかったが治ることはなかった

治す方法は担当医に教えてもらった

普通の人なら簡単だと言うかもしれない…

だけど愛される幸せを知らない私には

それはとても難しいものだった



中学二年生の夏に付き合った初恋の彼と再会したのは高校三年生の春

昔の記憶が戻った直後の事だった

私が高校から帰ってきて犬の散歩へと近所の公園へ行った時、

満開の桜の木の下で私たちはもう一度出会った


これはもう話しかけるしかない思った私は…

「だ、大地」

「未菜…久しぶりだね」

「…うん、話したかったことがあるんだけどいいかな」

そう、思い出してからずっと大地に謝りたかった

付き合っている最中に記憶を失って辛い想いをきっとさせてしまったから…

「うん」

二人で近くにあったベンチに座ることにして私たちは話し始めた


「あのね、私たちって中学二年生の春に大地が告白してくれて付き合ってたよね」

「そうだね…」

「それでね、話したいって言うのは…実は言うとね…私…あの年の夏に記憶喪失になったの」

「…え」

「それで付き合っていたのに大地のこと忘れちゃって、

大地からしたらあの頃の私は突然変わっちゃってただろうから訳わかんないかっただろうし…

だから謝って許されるような問題じゃないけど、ごめんなさい」

「……謝らなくて大丈夫だよ

それより、その記憶ってなんで失ったの」

「それは…病院でストレス性のものって言われたかな…」

「っ…俺のせいだよな…

守るとか言っといて守りきれなくて俺こそごめん…

本当はここでもう一度やり直そうって言いたい…だけど…

実を言うとさ…未菜の両親が離婚したって噂で聞いて知ったんだけど、同じ頃にうちも離婚したんだ」

「え…そうだったの…大丈夫…?」

心配になった

だって、大地は両親が大好きなのを知っていたから

「母親には別に男がいたんだ…それで…」

「そう…だったんだね、つらいこと思い出させてごめんね…

うちもね、話すと…母親に男の人がいたみたいで離婚してすぐに再婚したの…

その時ね、もう誰かを信じるのが怖くなっちゃったの…

大地は学校で1番の人気者で女の子たちは皆大地と付き合いたがってた…

その中で私を見つけてくれて、

私を好きだと言ってくれて、本当に嬉しくて次の日一人にだけその事を話したの…

小学一年生からの親友だけにはって思って…

そしたらね、そのことを情報として売られちゃって…ってあれ…ごめんね、

泣かないつもりだったんだけど…止まらないや…」

その時だった

大地は私を強く抱きしめて

「もう…いいよ…わかってる、全部わかったから…

もう大丈夫だから…

俺も同じだから…母親のこと親父から聞いた時さ、もう誰も信じられないって思った…

本当はもう一度未菜と再会できたらやり直したいって思ってた…

だけど俺は未菜を疑ってしまう…そんな自分が嫌だし、未菜に信じてくれないんだってそうやって辛い思いさせるのも嫌だ…

だから…好きだった、未菜を愛してた」

「うん…

私も今の私は記憶を取り戻してる…

だけど誰かを信じることは難しい…

私だって思い出した時一番にそのことを願った…

だけどそうするのが一番なんだよ…

好き…大地のことが大好きでした」


初めて彼に伝えた言葉

ずっと恥ずかしくて好きだなんて言葉にしたことなかった

突然無言になったのが不思議でずっと泣いて下を向いていた私は顔を上げると、

大地の顔は耳まで真っ赤になっていた

「今は見ちゃダメ突然好きとか反則…

未菜だってお前…まじで…

初めて未菜から好きだって言われて…

まじで…今は俺の顔見ちゃダメ」

と、言って片手で自分の口元を抑えるともう片手で私の目を隠してきた

しばらくして少し深く息を吸ったかと思うと手を離し、大地は話し始めた


「未菜が好きとか口に出来ないの知ってたから聞くのに4年もかかったけど、今日は本当に話せてよかったよ…

あのさ、運命の相手って二人いるんだって」

「二人…?一人じゃないの?」

「うん、最初に出逢う運命の相手っていうのはお互い愛している人を失う辛さを学ぶ運命の相手って言われているんだって…」

「じゃあもう一人は…?」

「それは、永遠の幸せを…愛を知ることの出来る運命の相手なんだって

この話聞いた時さ一番に未菜を思い出したよ」

「ん?何で…??」

「相変わらず、未菜は鈍いな」

と、少し笑いながら言ってきた

「いつも思ってることを素直言えないツンデレな寂しがり屋の泣き虫のお姫様が俺の一人目の運命の相手」

「ちょっ…

まぁーけど、確かに大地の言う通り私たちは一人目の運命の相手だったんだね…きっと」

「あぁ、だから次出逢えるのはお互い永遠の愛を知ることの出来る相手ってことってわけ

きっと俺たちならその相手に巡り会ってもう一度信じてみることが出来るようになれる気がすると思うんだ…ってここで言えたらかっこよかったんだけどな」

と、また大地は笑いながら言ってきた

「俺は無理でもお前なら、未菜ならきっともう一人の運命の相手に出逢えるよ

だからその時はちゃんと想いを直ぐに伝えなよ

俺みたいに何年も待てるやつなんてそうそういないんだから

俺はいつまでも未菜の幸せを祈ってる」

「うん…ありがと

私も大地の幸せを祈ってる」

「あぁ…ありがとう、未菜」

「うん、じゃあそろそろさようなら、かな…」

「そうだな…俺たちはここから別の道に進んでいく…

だからここでさよならをしよう…」

「大地、本当に今までありがとう

ばいばい…」

私はベンチから立ち上がると後ろは振り返らずにそのまま真っ直ぐ家へと帰宅した



大地との一件から二年後、大学一年生になった頃に私はネット上で彼と知り合った

彼は福岡に住み、私は神奈川に住む千キロの距離の遠距離恋愛

付き合うことになった頃丁度大学が休みなのに気が付き私は福岡に行くことを決めた

三泊四日の旅行に



初めて彼と博多駅で待ち合わせをしていた日

最初はかなり緊張してた

だけどそんなの一瞬で、駅の改札口で私を見つけてくれた瞬間に緊張なんてどこかに消えてしまって気づいたら昔から知っている友人のように接している自分に驚いた



旅行三日目、帰るのが嫌だと、せめてあと一日くらい会いたかったと思っていた時だった

彼から連絡が来て帰る日にも会えることになった

物凄くびっくりしたのと同じくらい嬉しかった


帰る日

二人で入った喫茶店でこの時間はとても幸せだなぁって思っていたら自然と顔が緩み笑みがこぼれてしまった

それを隠すために必死に平然の振りを装っていたらモジモジしてどうしたのって聞かれてもっと恥ずかしく感じて顔が熱くなる…

あの時ここだけ時間が止まってしまえばいいのにとわたしは何度、願っただろう

彼をもっと知りたいと思った

そして、もっと沢山同じ時間を過ごしていきたいと思った

そんなことを考えいた時だった

私がお揃いの物が欲しいと言ったのを考えたと言ってプレゼントをくれてそんなこと初めてで嬉しくて、泣きそうになってしまった

彼ともっと一緒に居たい

神奈川に帰りたくない

そんな想いで私の胸はいっぱいで寂しくて、

今にも涙がこぼれ落ちそうになりながら私は神奈川へと帰ってきた



今まで出会ってきた人達とは全く違う彼

付き合った日に手を繋ごうと言ってきたりと、とにかく何かしらのアクションがあった

なのに彼は計三日間会ったのに手を繋いだのは一度きり

だけどそれはしばらく会えないと思ったらせめて手くらい繋ぎたいと思ってしまった自分がいて、そんな自分が恥ずかったが改札までのあと少しの距離を知った瞬間言葉にしていた

手を繋ぎたいと

付き合ってるのにそれだけってことはやっぱり会ってみたら私はタイプじゃなかったってこと?

だけどそれならプレゼントは?

頭の中がこんがり始めていた


怖かった

不安になった

想いを伝えるのが怖かった

だって、私が想いを伝えた人には裏切られたりしてきたから

信じたかったけど…それ以上に人に裏切られすぎてなかなか信じきれなかった

だってあんなにもかっこよくて性格もいいし…と、色々考えてしまっていた

それに、こんなにも無言で隣にいても苦じゃないと…

逆に彼とのそんな時間すらも愛おしく感じてしまうなんて今までは誰かと無言になると気まずくて苦でしかなかった時間が彼とならいくらでも過ごせてしまうと、

もっと一緒に居たいと思う今までの自分にはなかった感情ということしか私は分からなかった



自宅に帰るための最後の最終列車にぎりぎりに飛び乗って地元の最寄り駅で降りるとベンチに人が座っていた

電車はこないのになぜだろうと不思議に思いながら歩いていく

そして近づいていくうちに知り合いだと気づいた


「…大地」

「未菜…」

「なにしてるの」

「仕事帰りで疲れて動けないとこ」

「お疲れさま」

と言いながら私は大地の隣に腰をおとした

「で、未菜は?」

「花火大会に行ってたら足痛めちゃって休んでたら時間やばくなって終電乗って帰ってきたところ」

「彼氏と?」

「友達と」

「最近どうなの?彼氏はできた?」

「いるよ、けど…」

「けど?」

「うん…」

大地に全部打ち明けた

男友達たちが彼氏が浮気してるよと連絡してきてこの子と私たちが知り合ったネット上でその子とも浮気してると言われ悩んでいることや自分の想いを本当に全部打ち明けた


「まず未菜、彼氏がこの子と浮気してるだろって言ってきた人達全員男友達ってことは気があって奪うために嘘ついてる可能性だってあるだろ

俺たちが付き合っていた時だって俺に未菜を奪うって宣戦布告してきたやつとか普通にいたし

その人たち皆がとは言わないけどそういう可能性があるってことをまず考えた方がいいよ

そんなこと言われて俺もさ、未菜の信じられない気持ちはわかるよ

親に過去の人に…って俺たちは裏切られすぎた

だけど未菜ならきっともう一度誰かを信じられると思うよ

っていうかその言ってたやつらよりも俺の方が未菜を理解してるから大丈夫だって

当たるから

人生の半分くらい未菜と恋した俺が言うんだから

…まったく、相変わらず泣き虫なの直ってないのな」

「え…?」

言われて私は涙を流していたことに気がついた

「もしもさ、その人が本当に浮気していたとしてもそれは前に話したもう一人の運命の相手に出逢うための道なんだよ

だから素直に未菜のしたいようにすればいい

浮気されてたらその時、わかった時にまた考えればいいんだよ

未菜、今の考えはどうなの?」

私の今の考え…今まで全然わからなかった

だけどこの数分のやり取りでそれはもう決まった

「浮気とかしてないと思う

だけどなんで手とか繋がなかったのかなっていうのは…未だにわからない

会えるの次は当分先だから改札まで手繋ぎたいって言った時の繋いでくれたとき戸惑わないで繋いだからさ…したことないわけじゃないってことじゃん…

私のこと会ってみてタイプじゃなかったってことなのかなって2日目思ったの、だけど帰る日の前日に会えることになって当日に私が欲しいって言ってたお揃いの物をプレゼントしてくれたりして…

どういう想いなのかわかんない…

どうすればわかるかな…付き合ってまだ1ヶ月も経ってないのにこんな話重すぎてそれこそ別れよってなりそうじゃん」

「その答えはさ、本人に直接聞きな

そのくらいなら未菜が気にしてる重いには入らないから大丈夫だよ

いやーけど未菜がそんなこと想う日がくるなんてなぁー

やっぱりその人に出逢って未菜、いい方向に変わったな」

「うん…ありがとう…大地」

「いえいえ、ツンデレで泣き虫のあの未菜が手を繋ぎたいって言っただけで俺は信じる証拠としていいと思うけどな」

「なにそれ…関係ないでしょ」

「いや、だってさ、未菜の勘が鋭いのは今まで見てきたからこそというか…手を繋ぎたいって思って、その人に今まで誰にも言えなかったのに初めて言えたってことは未菜の勘がこの人は大丈夫だからってのを示してるのかと…

まぁ、あれからかなり俺たち歳とったからなぁー

感鈍くなってるかもだけど」

と、笑いながら言ってくる

大地らしい意見だと思った

「大地のおかげで自分の中まとまった…というか、やっぱり疑うなんてしたくない

私、誰かに言われると前の思い出して怖くなって悪い方向に考えちゃう癖直さないとだね…」

「まぁ、付き合って1ヶ月も経ってないなら流石に言いにくいっていう未菜の気持ちはわかるからさ、ゆっくり気長にみて言えるなって思えたらその人に全部うち開ければいいんじゃないのかな…」

「うん…」


今日、ここで大地と再会したのはこのためだったのかもしれないと、ふと思った

ここでの話がなかったら私はきっと悩んだままだったから

神様…ありがうございます…

と、目を閉じ頭の中で強く神様に届くようにと願いながらお礼を告げた



結局、不安だったから粗探ししちゃったのだ

傷つく前に自分からって…

二人で本屋さんで時間を忘れて立ち読みした時間とか電話で無言でもそんな時間も好きだと思えて、こんな感情誰かに抱いたことなくて不安になった

彼が私を選んでくれた理由がわからなかったから…

それにあんなにもかっこよくて性格もいいになんで私なのだろうという感じで色々考えてしまっていた

こんなにも無言で隣にいても苦じゃないと…逆に彼とのそんな時間すらも愛おしく感じてしまうなんて今までは誰かと無言になると気まずくて苦でしかなかった時間が、彼とならいくらでも過ごせてしまうと、もっと一緒に居たいと思う今までの自分になかった初めての感情

もう一つ気づいたことがあった


違かったのだ

今まで私は愛し、愛されなければこの病は治らないと担当医から言われてからずっとそうだと思っていた

だけど本当は違かったんだ

もし、この初めて私の中に生まれた感情を…

彼に対する想いを彼に伝えて、別に本命の彼女がいると以前のように知ったり、遊びだったとかやっぱり恋愛対象としては見れないと言われるのが怖くて逃げようとしてただけ

母親の不倫を一年も知らなかったことや、裏切られた経験から私は色んなことを考えすぎてしまっていたのだ

私がもう一度、心から人を信じることが出来たら不安なんてきっと生まれない

そう、私がもう一度人を心から信じることができるようになればこの病は治るのだ

ずっと嫌だった

愛し愛されることで治る病

そんな病が嫌で嫌で仕方がなかった

昔、子供の頃に夢見ていたお姫様と王子様のお話みたいで嫌だった

だってそんなの現実じゃありえないから

王子様なんていない

だからずっと治す方法を探していた

時には苦しくなって消えたくなった時もあった

だけどこの世界で私はもっと生きたい

普通になりたい

そう願い続けて三年

やっとみつけた治す方法

私は人をもう一度心から信じられるようになりたい

ううん、もう信じられるようになってきている

だから私は記憶を失わないようになったんだと気づいた



私は人をもう一度信じられるようになった

だけど生きてたら…

恋をしていたら不安になることだってある

アニメだとしても恋愛映画に行ってくると聞いた時は胸の中がぎゅっとなった

心の中では誰と行くのって気になって仕方がなかった

他には私と同じ様に連絡先を交換した女の子はいるのかなって、

きっと私以外にもいて私と会ったみたいに他の子とも会ったりしてるのかなって…


今までこの感情の正体に気づけなくてずっともやもやしていた

なんでこんなに胸が苦しくなるの

ってずっと思ってた

その気持ちの正体に気づいたら簡単だった

ヤキモチっていう私の初めての感情

その時ふと思ったのが、恋は恋する相手によって今までとは全く違う新しい恋をする

色んな新しい感情が、今まで自分になかった想いが溢れてくるのだと

恋というのはどんな恋でも初恋のようだと思った

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初恋 明日花 @asuka_02

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