第27話 ロンドン
翌日は、午後早い時間のBAに乗り、シアトルを発つ。
地球を半周したこの旅もようやく終わり。
九時間余りのフライト。翌朝にはロンドンに着く。
今回はビクトリアがファーストクラスを取ってくれたのですこぶる快適。
もっとも、並びの座席とはいえ仕切られたブースでは、隣のビクトリアが何をしているかは分からなかったが。
ヒューストンは一人、この旅の出来事を反芻する。
ずいぶんいろんな人に会った。思いもしなかった話を聞いた。
自分が死ぬことなど今までちゃんと考えたことはなかった。
近しい人間が亡くなったこともない。
今の仕事に就いてからは、独り気ままに生きてきた。
これまでの人生、これといった不満もなくやってこられた。
そこそこに成功したこともあった。
いつ死んでもいいとは思わないが、死にたくないと怯えているということもない。
ただ、生まれ変わりというものがあるのだとしたら、あまりがむしゃらに生きていかなくてもいいような気もする。
機内食を食べ、ビールを飲み、フルフラットのシートで見るともなしにぼんやりとモニターに映し出される映画を眺めながら、そんなことを考えているうちに、ヒューストンはいつしか眠りに落ちていた。
早朝のヒースロー空港、平日(といっても、もう曜日の感覚は既にないのだが)ということもあってか、まだ閑散としている。
「じゃあね。今度、そっちに行ったら『莫高窟』案内してよ。『月牙泉』も見たいわ」
ビクトリアはそう言うと入国審査の自動化ゲート(eGates)へ向かいかけて、振り向きざまヒューストンを軽くハグする。
「約束よ」
ビクトリアは甘い香りを残してさっと身を翻し、eGatesに消えていく。
約束よ、か。
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