第80話
※別作品『結論から言うと、最近幼馴染みがデレ始めて可愛いです』を投稿しました!
こちらの作品と同時に更新しますので良かった読んでみてください。
よろしくお願いします。
告知失礼しました、この後本編です。
◇ ◇ ◇
文化祭一日目、午後に入った俺は今は拓也と二人でクラスにいる。
どうやらうちのクレープは評判が良く、午後を境に続々と生徒や外の人たちが押し寄せてきていた。
今はある程度落ち着いており、拓也と二人ホットプレートの前で来たるお客さんを待っている所だ。
「はぁ……」
「どうした衛介、さっきからため息つきまくりだな」
「いや、時間を戻せるなら戻したいと思ってな……」
「年寄りみたいな事言うなお前は」
もしも戻せるなら今日の午前中をやり直したい。
そうすればあの麗奈の顔を見なくて済んだというのに。
「……佐浦さんとなんかあった?」
「……違う、俺個人の話」
「そっか、なら良いけどさ」
「……」
駄目だ、黙っていると余計に思考が止まらない。
本当に自分が女々しい奴だとつくづく思う。
クラスで待機している者は、客のいないここで来客者を各自待っている。
客がいないのではやる事のない俺たちも、廊下を楽しそうに歩く生徒たちを眺めていた。
するとそんな俺たちの耳に、一つの会話が入ってくる。
『なあお前あのクラスの見た?』
『見た見た! ちょー可愛かったな〜』
『あの歌うシーンとか最高だわ、マジ歌姫って感じ!』
廊下を歩く男子二人は、まるで大ヒット作の映画を見たかのように熱弁している。
その二人が指す指の先、それはうちのクラスの隣だ。
「へぇ、やっぱり銀さんのクラス凄いみたいだな」
「……ああ」
「全く……行ってこいよ」
「え?」
いつまでも鬱屈する俺を見兼ねた拓也は、廊下を指し示す。
「いまなら俺だけでも回せるから、隣見てこいよ」
「でも……」
「そんな暗い顔だとお客さん逃げるぞ、狙ってるんだろ優秀賞?」
「……そうだな」
拓也の言葉も一理ある。
こんな顔で人様にクレープなど提供出来ない。
拓也たちには悪いが、少し気分転換をさせて貰おう。
「すまん、ちょっと出てくる」
「おう、戻ったら俺もだからな〜」
クラスを出る俺に手を振る拓也に背後に、俺は廊下へ出る。
エプロンを付けたままだが、場所は隣だからこのままでいいか。
そうして廊下に出た訳だが、隣をクラスを見て驚愕する。
劇をやっている教室の前側はスペースが確保されているが、その他は全て生徒で溢れかえっている。
更にそれは廊下にまで及んでおり、はっきり言って中に入るのは難しい。
人気だとは聞いていたがここまでとは。
「これじゃあ中が見えないな」
諦めてクラスに戻ろう。
そう思った直後、教室の前側から美しい歌声が聞こえてきた。
『♪〜』
溢れるほど人がいる教室だが、今はその歌声だけがクラス内をこだまする。
何処までも澄んだその歌声は廊下を通る生徒たちまで惹きつけ、通路には人だかりが出来ていた。
劇の内容はわからないが声を聞くだけでわかる。
これは麗奈の声だ。
「すげぇ……」
ぽつりとそんな言葉が不覚にも出てしまう。
しかしそれ程までに、その歌声は俺たちの心を奪ってしまった。
少しでいい、一目でもいいから麗奈の姿を見てみたい。
そう思い、俺は廊下の外から背伸びして中を覗く。
すると教室の前方に、修道服を着た麗奈の姿が見えた。
目を瞑り、ロザリオを両手で優しく握る麗奈は、神に祈りの唄を捧げる……様に映る。
内容が全く分からないので何が行われているかは分からないが、誰が見てもわかる事が一つだけある。
……とても美しかった。
そんな麗奈を遠くから見つめていると、不意に開いた麗奈の目に見られてしまう。
刹那麗奈と見つめ合うが、歌い終わった麗奈は視線を別のところへ向ける。
それと同時に教室内は喝采で溢れかった。
それを見て俺は決める。
このまま麗奈に勘違いされたままでは嫌だ。
何とかして、この文化祭が終わる前に麗奈と話をしなければ。
そう心に決め、俺は自分のクラスに戻るのだった。
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