第78話

 麗奈と話を終えて帰宅すると、時計の短針は七時を指していた。

 どうやら知らぬ間に結構話し込んでいたらしい。

 最近日が落ちるのが早くなっている、あいつは無事に帰れているだろうか。


 そんな心配をしつつ、俺は部屋着に着替えてリラックスする。

 ベッドに仰向けになり、腕で目元を覆い蛍光灯の光を遮る。

 すると意外と溜まっていた疲労と共に眠気が襲ってくるが、それよりも俺は先程の麗奈の顔を思い出していた。


「文化祭デート……か」


 結果から話すと、俺は文化祭デートを断った。


 休日の二日間に渡って開催されるうちの文化祭は、クラスによって生徒たちの休憩時間が違っている。


 俺たち食品系を扱うクラスは、事前に登録されている生徒しか調理を行うことができず、更にその人数は俺を含めて合計四人。

 その人員同士を上手く回し、二人ずつ休憩を取ることになっている。


 麗奈の方はクラス全体で演劇を行うそうだ。

 こちらはクラスを二グループに割って、午前と午後で分けている。

 麗奈は午後の部に属してるらしい。


 お互いの休憩時間が被るのは午前中のみ。

 しかしその時間は、俺は佐浦と回ると約束している。


 それに『銀ファン』が蔓延る文化祭で、麗奈とデートすれば注目は免れない。

 麗奈の申し出は嬉しかったが、そこまでのリスクは流石に負いたくは無い。


 それを聞いた時の麗奈の曇り顔。

 正直あんな顔は見たくなかった、いやさせたくなかった。

 しかしだからこそ、俄然やる気が出てきた。


 二日間売り上げトップを叩き出し、売り上げ部門最優秀賞を取る。

 そうすればミッション達成で、誰にも邪魔されず、麗奈に告白が出来るという訳だ。


「……流石に自分で言ってると恥ずかしくなるな」


 言葉にした途端、顔の熱が上昇したのが分かる。

 普通こんなつまらない出来レースに、高揚するのはおかしいと思う。


 しかしその先に待っている未来を考えると、自然と口角が上がってしまう。

 そんな歪な青春を、俺は楽しんでいた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る