結論から言うと、学校一の美少女とワンルームの部屋で同居する事になった

スーさん

第1話

 俺、斉藤衛介さいとうえいすけは独りが好きだ。


 一家の長男という事もあり、昔から両親によく頼み事や、まだ幼い妹達の面倒を任されていた。


 そんな過去があり、あまり自由に出来なかった俺は、高校生になったら独り暮らしをしたいと両親に頼み込む。


 両親の方は俺の願いを快く受け入れてくれた。

 俺の苦労を理解してくれて、更に俺なら何の心配も無いとまで言ってくれた。


 しかし妹たちは俺の一人暮らしに反対した。


 俺から一つと二つ年が離れている妹達は所謂『ブラコン』であり、昔からずっと俺にべったりだ。

 この二人を説得するのに骨が折れた。


 その所為で本来は春からだった独り暮らしも、ブラコンシスターズの我儘により夏まで延期になってしまった。


 しかしそれもこの前で終わった話。

 漸く独りになれた俺は、今は新居に届いた大量の段ボールを開封していた。


 学校の方は明日からで、今日は山の様にある段ボールの片付けを行っている。


 寝具や収納ケースなどの家具は既に設置済みなので、後は衣類を収納するだけ。

 他の細かな物はこれから揃えて行くつもりだ。


「こんなところか」


 一人にしては広かったワンルームの部屋に、自分の私物が並べられ少し狭くなる。

 手狭になってしまったが、この部屋が俺だけのものだと思うと嬉しさしか無い。


 もう邪魔する者はいない。

 これからは独り暮らしを全力で楽しませてもらうとしよう。

 そう思いながら鼻歌交じりに、俺は荷解きを行なっていた。



 ◇



「それじゃあみんな、仲良くしてあげてね?」


 新居の荷解きを終えて次の日。

 転校先の学校で紹介を終えた俺は、クラスの最後尾の席に座っていた。


 クラスの皆は既にそれぞれの友人達と固まっていたが、外から来た俺に優しく接してくれた。


 都会は割と冷めていると聞いていたが、場所によって違うのかもしれないな。


 そんな新生活も始まりを告げ、学校が終わった俺は自宅に向かって歩いていた。


 新居の方は学校からかなり離れているが、交通機関を使うには微妙な距離だ。

 なので通学の時とは違い帰りは徒歩にした。


 しかしゆっくりし過ぎたのか、いつのまにか夕方になっていた。


 夕食の準備をするべく、急いで帰ろうとするがまだ慣れない土地感に、気付かぬうちに迷子になってしまった。


「うわ、もうこんな時間かよ」


 迷子になってから更に時間が経ち、あたりは既に暗くなっている。

 スマホで時間を確認すると、二十二時と表記されていた。


 スマホのマップ機能できちんと道を確認していたが、どうやら情報が古いようで、実際の道とは異なっていた。


 別のマップアプリで自宅の住所を打ち込み、ルート通りに歩いて帰宅を試みようとする。

 すると道中で見つけた小さな公園に目が留まった。


 街灯すら無いその公園は住宅街の一角にあり、必要最低限の遊具しか設置されていない。

 そんな寂しい公園で、圧倒的な存在感を放つ少女が居る事に気付く。


 糸の様に細い銀髪が、月夜に照らされ幻想的な光を放っている。

 それと同じく雪のような白肌と、鮮やかで深みのある碧眼も、その輝きに負けずとも劣らない主張をしていた。


 そんな色々と規格外の少女に、俺は少しばかり目を奪われた。


「あの制服ってうちのか?」


 制服姿のその少女を見るに、恐らく俺と同じ学校の生徒だろう。


 こんな時間に暗い公園で何をしているのか気になるが、今はそれより帰宅するのを優先する。


 しかしその公園を通り過ぎようとした時、その少女に話しかける者が現れた。


『君、こんなところで何をしてるんだい?』

『……』


 紺色のシャツと黒いベストを着ているその者は二人おり、白塗りの自転車から降りてその少女を囲む。


 片方は少女に話しかけており、もう片方は無線を使って連絡を取っていた。


「あー、あれが補導ってやつか」


 都会では深夜になると声を掛けられると聞いていたが本当だったようだ。

 俺も見つからないうちに早く離れよう。


 しかし警察に囲まれて焦る少女の表情を見た途端、自然と足が止まってしまった。


『親御さんに確認を取りたいから、悪いけど一緒に来てくれ』

『い、嫌!』


 片割れが少女の肩に手を置くと、少女はそれを払い除けた。

 理由は分からないが、どうやらあの子は捕まりたく無いらしい。


「……面倒なもの見ちまったな」


 俺はスマホをしまい、嘆息を吐きながら公園内に足を踏み入れる。

 そして少女と大人達の間に割って入った。


「すみません、こいつ俺の知り合いです」

「君は?」

「同じ高校の者です、すぐ帰るんで見逃してもらえませんかね?」


 俺の言葉に二人は怪訝そうな顔を見せるが、どうにか納得してもらい彼女から離れて行った。


 その二人の後ろ姿が見えなくなった頃に、俺は彼女に事情を聞いた。


「こんな所で何していたんだ?」

「……貴方には関係ない」


 無表情なままそっぽを向いて、話を拒絶するその態度に少し怒りが湧く。

 勝手に助けたとはいえ、そんな反応をされ少しばかり腹が立った。


 これ以上この子に付き合っていても仕方ない。

 俺はその場を離れる事に決めた。


「あっそ、それじゃあ好きにしろ」

「そうさせてもらうわ」


 先程と変わらず目の前の少女は、顔すら合わせずそういった。

 駄目だ、会話をしていると苛立ちが増すだけだ。

 さっさとこいつから離れよう。


 俺は少女からゆっくりと離れるように、小さな公園から出て行ったのだった。

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