第4話 ですよねー
「ちょっとうるさいわね。他種族の裸なんてどうでもいいでしょ」
そう一言モノ申すと、全裸の上からスポンとワンピースを着るプリメイア。
「あ、ちなみにちっちゃいけど角も生えてるわよ」
ほれほれとばかりに頭を突き出してくる。確かに小さいけどダークブルーの髪の隙間から、白い突起物が見える。
いやそれよりもだ。ツッコミどころが多すぎてどこから指摘すればいいのかわからん。俺にどうしろってんだ……。
「……他種族でも人型なら気になるっつーの」
「えっ、ナニソレ……、他種族に欲情するとかキモイんですけど……」
ぼそっと呟いた言葉にドン引きするプリメイア。両腕で自分自身を守るようにして一歩下がっている。
いや……、ちょっと待ってくれませんかね……。オタク文化に溢れた現代日本ならそういうもんだろう! 俺がおかしいわけじゃない! きっとそうだ! だからそんな奴の前で全裸になるんじゃないよ!
「それ以上近づいたら……、燃やすわよ?」
なんというか、女の子に完全に拒絶されるというのもちょっと凹むな……。自分から全裸になっておいて、釣れたら文句言うとかなんて奴だ。
ってか燃やすってなんだよ。まさか放火するとか言うんじゃ――
「いやいやいやいや、なんじゃそりゃ!?」
ビシッとこちらに突き付けた指先から、ゆらゆらと炎が立ち上っている。
「だから燃やすって言ったじゃない」
「そうじゃなくて、なんで指先から火が出てんだよ!?」
「はぁ? 魔法に決まってるでしょ」
マジかよ。いや空間収納とか見せられた後だし、指先から炎を出されても納得しろってか!?
いや待て、そんな中二が喜びそうなことよりも、我が家が放火されるかどうかの瀬戸際だ。ここで選択肢を間違ってはいけない。
「わかったから落ち着いてくれ」
「落ち着くのはあんたの方でしょう」
ぬぅ、そういわれると反論のしようがない。いろんなことがありすぎて興奮しているのは確かだ。これが落ち着いてなどいられるかああああぁぁぁぁってやめろ! その指から出てる火を近づけるんじゃない!
「落ち着いたかしら?」
「落ち着いた! 落ち着いたからそれ消して!?」
後ずさりながら懇願するとようやく火を消してくれた。こいつぁやべーぞ。この女は絶対に怒らせてはいけない。例え目の前で全裸になろうが襲い掛かってもいけないし、反応するのも……ってどんな拷問だよ!? えらいもん拾ってしもた!
「さっきから何よ……。興奮したり落ち込んだりせわしないわね」
「誰のせいだよ!?」
これが叫ばずにいられますかって。
「知らないわよ」
そりゃそうですよね! そっちからすれば拾われただけだし、俺が勝手に異文化に衝撃を受けてるだけですから!
「それにしても思ったより快適な家ねー」
一人で頭を抱えていると、プリメイアが家の中を見渡しながら呟いている。魔王の実家がどんな家なのかは知らないが、いろんなラノベを読む限りだと日本は文明が進んでるからそう感じるのかもしれない。知らんけど。
「これは何かしら?」
そう言いながら手に持ったのはテレビのリモコンだ。物珍しそうにひっくり返したりしているが、やはり目立つ赤いボタンは押したくなるんだろう。ぽちっとしたところで、部屋の隅に置いてあるテレビの電源が入った。
「うわわっ、ナニコレ!?」
身構えるようにして両手をテレビへ突き出すプリメイア。その手のひらには何やら光が集まってきて……。
「や、やめろ!」
嫌な予感がした俺は、とっさにプリメイアとテレビの間に体を割り込ませる。
「ちょっと、どいてよ! そいつ殺せないじゃない!」
どこかで聞いたセリフに思わず振り返ると、犯人が包丁を振り回して暴れる刑事もののドラマをやっていた。
「いやいや、これは芝居だから! 本物じゃないから!」
「……そうなの?」
「当たり前じゃねぇか! 一般家庭にそんな危ないもの置かねぇよ!」
軽くテレビの仕組みを説明してあげるとようやく納得してくれたらしい。そういうところを考えるに、頭は悪くないようだ。
「へぇ。面白いわね……。ますますここが気に入ったわ!」
ですよねー!
「はぁ……」
「どうしたのよ?」
大きくため息をつく俺を慮ってくれてるのかどうかわからないが、一応心配する言葉をくれる。まぁアナタが原因なんですけどね。
「いや、ただ単に疲れただけだから、気にしないで……」
「そう。それならよかったわ」
ただただ疲れ切った俺は、そのままテレビへと視線を向けると。
「――っ!?」
重大なことに気が付いてしまった。テレビの中にある時計が、16時前を指していたのだ。
もうすぐバイトの時間じゃねぇかっ!? やべー、遅刻する!?
「そんなに慌ててどうしたのよ?」
プリメイアの言葉に悠長に答える余裕もない。財布と家と自転車の鍵を引っ掴むと声の限り叫ぶ。
「もうすぐバイトなんだよ!」
「へぇ。学生と聞いたけど、働いてるのね」
「出かけるから大人しくしてろよ!」
「わかってるわよ」
ニヤリと笑うプリメイアに、巨大すぎる不安を抱えたまま俺は家を出るのだった。
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