第10話 逢瀬
「ダビデ様。少し風に当たりません?」
ミカル姫がダビデの耳元で囁く。暖かい吐息がダビデの耳にあたる。
「ええ、ご一緒します。」
二人は、勝利に沸く王と側近たちを残し、こっそりと宴を抜け出す。
庭園は月の光に照らされて、草木をやさしく照らしている。
「ダビデ様、神に祈っていたのです。今日のような日が来ることを。」
姫の顔が月明かりに照らされる。きめ細やかな肌。手入れされた美しい髪。
王の芯の強さと王妃の美しさを受け継がれている。
「姫は荒野に咲く姫ユリのようです。」
「ダビデ様。」
二人はお互いに見つめあい。そして、口づけした。
そして、また見つめ合う。ダビデはミカルの儚げで、守りたくなる美しさ。
それでいて神を信じる強い心に惹かれていく。
「月がきれいです。」
「ええ、神が私たちの結婚を祝福してくださっているに違いありませんわ。」
ミカルの細い首筋を月あかりが照らす。この一瞬を切り取っていつまででも眺めていたい。ダビデは心からそう思う。
「ダビデ様、私の部屋で眠りの竪琴を弾いて下さらない?」
「ええ喜んで弾きましょう。」
そして、二人は夜更けまで何度も愛し合った。
二人はまだ夜が明けないうちに目を覚まし、鳥たちが鳴き始めたころ、別れることにした。
いくら結婚したとはいえ、あまり人目について噂になりたくない。
「姫、朝になる前に出ていきます。また、お会いしましょう。」
「ダビデ、最後に口づけを……。」
二人は別れの接吻をして、ダビデはそっと姫の部屋から出ていった。
ダビデは通路で誰にも会わずにほっとていた。誰にも見つからず宿舎に戻れるといいのだけれど。
通路をそっと歩くダビデ。
「おはよう。」
驚いて振り向くと、そこにはヨナタン様がいた。
「昨日はミカルの部屋に?」
「・……。」
ヨナタンは大声で笑う。
「君たちは昨日結婚したんだ。誰も文句は言わないさ。ところで、君に聞きたいことがある。」
「何でしょうヨナタン様。」
「ゴリアテを倒した君を見て私はひょっとしたら、君はメシアなんじゃないかと思った。
だから、預言者ダニエル様とのことを詳しく聞きたいんだ。」
「わかりました。」
「それとダビデ。私相手には友人のように接してくれ。様もいらない。ヨナタンと気軽に読んでほしい。君はもう王族で英雄なのだから。」
ダビデは少しばかり戸惑って遠慮がちに話し始める。
「わかった。ヨナタンでいいのですね。
ダニエル様と会ったのは、王宮に来るひと月ほど前になります。
ダニエル様は杖をついて放牧をしている私の元にいらっしゃいました。そして、神に祈りをささげて、私の頭に香油を注がれ祝福してくださいました。おそらくオリーブの香油でしょう。」
「ダビデそれは聖別だ。君は油注がれたものに選ばれたのだ。」
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