第7話 決戦
「神よ、イスラエルを愚弄したゴリアテとペリシテに災いを。」
ダビデは簡潔に祈りを捧げ、河原に降りていく。心は静まり、清流の傍の滑らかで丸い石を
4つ拾いあげる。
そして、イスラエル陣営に戻る。
「ダビデ気休めにしかならないが……。」
青銅の鎧を差し出すヨナタン。
「不要です。私にはヤーヴェがついています。」
鎧を断るとダビデは、カバンの中の石と革でできた投石機を確認する。
「それでは、行ってまいります。」
「神の祝福があるように。」
「ダビデは行ったか?」
王が、正規軍の将軍に尋ねる。
「はい。ですが、到底勝てるとは思えません。」
「当然だ。ゴリアテ相手に少年が勝てるわけがない。」
抑揚のない言葉で、王は将軍に答えた。
「ダビデが死んだと同時に奇襲をかける。彼には人柱になってもらう。」
「王よ。よろしいのですか。」
「仕方あるまい。ダビデには気の毒だがな。」
ダビデは、河原で4つの滑らかな石を拾い投石機を持ってゴリアテの前に現れた。
革で出来た投石機に石を乗せ回転させ一人ゴリアテの前に歩いていく。
ゴリアテは驚きを隠さない。
剣も槍も持たない少年だと?しかも投石機だけでくるだと?
「イスラエル軍の指揮官は気がふれたらしい。ガキを俺の生贄にするなんてな。」
そういうとゴリアテは一人高笑いし。持っていた槍を回転させて見せる。優に4メートル。重さも相当なものだが、ゴリアテは軽々と操る。
ペリシテ最強の戦士。
「ゴリアテ、お前がイスラエルと神を愚弄したことは許さん。死を持って償ってもらうぞ。」
高原にダビデのテノールが響き渡る。ダビデは怯えるどころか、冷静でいてそれでいて怒りに震えていた。
「お前のような小僧、一ひねりで殺してやる。」
ペリシテ軍も余裕をもって一騎打ちを見守っている。
「イスラエルの王は気がくるっている。」
「よりによってあんなガキになんてな。」
誰もがゴリアテの圧勝を確信する。笑いながら見守る兵も多い。
ダビデは落ち着いて投石機を回転させながら間合いを詰める。30メートル。
20メートル。
距離が近づくに連れ緊張が高まる。イスラエルもペリシテも固唾をのんで二人の戦いを見守る。
「お前など串刺しにして鳥の供物にしてやる。死ね。」
ゴリアテはダビデめがけて長槍を投げる。ダビデの胴体を貫くはずの槍。
しかし、ダビデは高く飛び上がり寸でのところで交わす。
ゴリアテは腰の剣を抜き距離を縮める。
「神の怒りと共に死ね。ゴリアテ。」
ダビデがそう叫ぶと、投石機から滑らかな石が勢いよく発射される。
石は狙いすましたかのようにゴリアテの右目を直撃する。
「うあああああああああっ。」
巨人ゴリアテの悲鳴が高原にこだまする。右目を抑えるゴリアテ。ダビデはすでに次の投石を用意していた。2つ目の石はゴリアテの左の眼をつぶし、血だまりがゴリアテの周りにできる。
ゴリアテは剣を落とし、視界をなくしたまま、地面に落ちた芋虫のようにのたうち回る。
両軍は一瞬の出来事に静まり返る。
ダビデは一歩一歩ゴリアテに歩み寄る。血だまりでのたうち回るゴリアテを見つめる。
そして、ゴリアテの落とした大剣を軽々と操り、一振りでゴリアテの首を撥ねた。
そして、その首を剣にさし高々と掲げる。
最強の兵士ゴリアテ。それを一瞬のうちに失ったペリシテ軍。
少し前まで笑いながら見ていた彼らも恐怖に震える。
「お前たちの隊長の命令だ。引けっ」
高原にダビデのテノールが響き渡る。
「ダビデがゴリアテを倒したぞ。」
「神は我々に味方してくださった。ペリシテなど遅るに足らない。」
恐れに震えるペリシテ軍、それとは反対に活気つくイスラエル軍。数で上回るペリシテだったが、士気の落ちようは明らかだった。
一人、また一人と恐れおののいて逃げ出すペリシテ軍。そして、心の折れたペリシテはゴリアテの躯をのこして敗走していく。
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