第6話 巨人ゴリアテ
「イスラエルの男は腰抜けばかりなのか?俺と一対一で戦ってみろ。」
「もし我に勝てたなら、この度は勘弁してやる。」
高原に仁王立ちする巨人が、イスラエル軍を挑発する。
彼の後ろには3万ものペリシテ人兵士。対するイスラエルは2万。
「一騎打ちだと?」
「はい、サウル様。敵の将軍ゴリアテが一騎打ちを望んでいます。こちらからも兵を出しましょうか。」
「志願したものは?」
「おりません。」
ウリアは下を向いたまま答える。
無理もないゴリアテは3メートルを超える巨人。武器も4メートルはある槍を手にしている。一対一は無謀というもの……。
王はもちろん、将軍、兵隊たちも負けを覚悟し始めている。
ペリシテ人に負けるということ、それはすべてを失うということに他ならない。
男は奴隷、女は娼婦に。ペリシテに負けた国々はどこも同じ運命をたどる。
王も、兵隊たちも神に祈るしか手を思いつかない。
ヨナタンも今回の戦いには頭を悩ませていた。椅子に腰かけて、頭を抱えている。顔色は真っ青だった。
「ヨナタン様、あの巨人は何なのです?」
ヨナタンが顔を上げると、そこにはダビデの姿があった。
「彼は巨人ゴリアテだ。残酷で卑劣な男だ。今回ばかりはイスラエル軍も勝てないかもしtれない。」
ダビデは、怒りに震えていた。神から選ばれたイスラエルを愚弄するゴリアテとペリシテ人に。
「もう一度志願者を募れ、もしゴリアテに勝つことができたら、免税とわが娘ミカルをやる。王族になれるとな。」
「わかりました。けれど、名乗り出るものがいるでしょうか?」
「いいから、さっさといけ。」
「はっ」
サウル王も気がたっているようだ。無理もない。ここ何年かの戦でイスラエル軍の戦果は芳しくない。
そして、今回ばかりは絶体絶命の状態……。
「ヨナタン様、あのゴリアテを倒せば王族になれるのですか?」
「らしいな。だが、志願者は現れないよ。そんな命知らずがいたら、気がふれているんだ。」
意気消沈するイスラエル軍の中、ダビデ一人はゴリアテに対する怒りに震えていた。
―神ヤーヴェが選ばれた民を愚弄するものは許さない。
「ヨナタン様、私がゴリアテを倒してごらんに入れます。」
「ダビデ何を言い出すんだ君は。君は音楽を奏でる少年で兵士ではないのだよ。さっさと王宮に戻れ。」
「私は羊飼いをしているとき、襲い掛かる二匹のライオンを同時に倒しました。神が私に力を与えてくれたのだと思います。王宮に来る数日前のことです。」
ヨナタンはダビデの話を聞き、もしかしたら何とかなるのではないかと考えた。彼は預言者ダニエル様の導きで出会えた。神から何かしらの力を与えられたのだろうか?
けれど、もしそうでなかったら?彼は兵士ではないし、戦の経験もない。無残に負けることがあったら軍の士気にも影響する。
「ダビデ。本当にいいんだな。」
「はい、王にお伝えください?」
「王よ。ダビデがお目にかかりたいそうです。」
「ダビデ?音楽家の少年か?今は音楽を聴いている場合ではないイスラエルの民の命がかかった戦なのだぞ。」
「王よ。私がゴリアテを倒して、神への供物にしてごらんに入れます。」
「ダビデ、お前は音楽家の元羊飼いなのだ。わかったら今すぐ王宮に戻れ。」
「王よ。彼はこれまで狼やライオンを何頭も倒しています。武器を使わずに。」
「武器もなしにだと?」
サウルがヨナタンの言葉を聞いて興味を持った時。ちょうどウリヤ隊長が戻ってきた。
「王に申し上げます。やはり、志願する兵は現れませんでした?」
「もうよい。ダビデお前の決闘を認めよう。けれども、一騎打ちである以上。お前が殺されかけても手助けはできないぞ。いいのだな。」
「はい、もちろんです。」
ダビデは自信に満ちた返事を返すと、王のテントを後にし、川へ向かっていった。おそらく投石の石を拾いに行ったのだろう。
ヨナタンはダビデを案ずる。
―ダビデ。私は君が心配だよ。もし君を死なせてしまったら君の両親に顔向けできない。
空は先ほどまで晴れていたのに、重く低い灰色の雲で覆われていた。
この一騎打ち、ダビデが無残に殺されるようなことがあれば、イスラエル王国は。
いやこの先は考えまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます