第3話商店街を歩く

カンカン、チンチンと踏み切りから電車が通過するときに鳴り響く警告音が、鼓膜を激しく刺激した。

着なれたスーツ姿になり、山柿敏夫は踏み切りが上がるのをまっていた。

入院用のパジャマいがいを着るのは久しぶりで、心地よかった。

日差しが眩しく、電車が通過するときの風が目に痛い。

両手を後頭部にあて、大柄な死神の女はチュッパチャップスをなめながら、敏夫の横に立ち、遮断機を上がるのをまっていた。

健康的すぎる、派手なアロハシャツを着た女の死神に連れられ、とある商店街を彼らは訪れていた。

ちらりと敏夫は肌つやの良いエルザの横顔を見た。

「なんだい、死神にしては派手だなっていいたげだな」

「いや、そういわけでは……」

口では否定したが、敏夫は内心では肯定していた。

派手な外見で明るい口調の死神なんて、どうもイメージにあわない。

「まあ、死神も人それぞれさ。さあ、行くよ」

遮断機かあがったので、二人は線路を渡り、アーケードをもつ商店街に入っていった。


結論から言うと、あんたの先に亡くなった妻の貴子さんには会えるが、話かけることはできない。貴子さんはあたしとは別の死神とそういう契約をしたようなんだ。ただ、遠くからなら見ることは、できるよ。理由は後で貴子さんと契約した死神が説明してくれるみたいなんでね、まあ、そういうわけで勘弁してくれないか。


それが商店街を訪れる前にきいた死神エルザの前置きであった。

会って、話てみたかったがそれが無理と言われれば、仕方がないと理解するしかない。


しかし、その理由とはなんなのだ。


腑に落ちない気持ちで心のなかはいっぱいだった。


精肉店、惣菜屋さん、衣料品店、和菓子屋、文房具店。多種多様な店がたちならび、買い物客がめいめいに店にたちやり、商品を見定めたり、店員と世間話に花をさかせていた。

そういえば、人当たりのいい貴子もこういう商店街で買い物をするのが、好きだったな。

商店街にはスーパーやショッピングモールにはない一種独特の魅力があった。

精肉店で買ってきたであろうあげたてのコロッケをエルザは実にうまそうにかじっていた。

「あっ、来たよ」

コロッケの具を口にいれたまま、エルザはいい、敏夫の痩せた手を掴んだ。

思いのほか温かい感触の死神の手に少しだけ、驚きながら、敏夫は彼女に引かれていった。

二人は店と店の隙間の路地に身を隠す。


視界にひとりの女性があらわれた。


白い色のカーディガンを着た明美によくにたかわいらしい、幼げな風貌の女性だった。

ポニーテールを左右に揺らしながら、背の高い男の腕にぶら下がるようにして、腕を絡ませ歩いてた。

長い髪の無精髭を生やした、どこかアーティストを連想させる風貌の男だった。

じっと貴子は敏夫が見たことのない嬉しそうな表情で目を細め、その男の顔を見ていた。

こんなに心から楽しそうにしている貴子の表情を敏夫の前で彼女は一度も見せたことがない。

何故だが、敏夫はガンに蝕まれた体が熱くなるのを感じた。

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