第34話 蒼天の竜騎士

 出だし早々に目立ってしまった俺たち2人。

 結局場所を移動しても、アマネさんへの注目は途切れることなく。

 行く先々で「剣姫様! 剣姫様!」という、黄色い声援が送られ続けていた。


「あの、気にならないんですか?」

「ん、何がだ?」

「ほら、みんなアマネさんのこと注目してるじゃないですか」

「ああ」


 ここまで注目を浴びれば、アマネさんだってさぞかし居心地が悪いだろうに。

 そう思った俺は、わかっていながらも彼女に尋ねてみたのだが。


 どうやら本人は、あまり気にしていないようで。

 顔色一つ変えないまま、落ち着いた口調でこう言ったのだ。


「毎度こうだからな。もう慣れてしまった」


 そのセリフはまさに、冒険者ギルド最強の剣士らしきセリフ。

 生でそれを聞いた俺は、思わずガッツポーズをしそうになるくらい。

 それくらいにかっこ良く、自分も一度は言ってみたい言葉だった。


「流石はアマネさんですね」

「やめてくれ。これでも一応恥ずかしいんだ」


 そう呟くアマネさんの頬は、ほのかに赤らんでいた。

 どうやら恥ずかしいというのは、あながち嘘ではないらしい。


「にしても慣れてるって。このパーティーは初めてじゃないんですか?」

「ああ、一応毎年招待はされている。ここに来るのは今年で3回目だ」

「3回目ですか。それは確かに慣れますね」


 てっきり今年初めて招待されたのかと思っていたのだが。

 どうやらうちのFGには、毎年招待状が届いているらしい。


 流石はアストラで2番目に大きいFGだ。

 貴族たちからの評価も、それだけ高いということなのだろう。


(ならなおさら俺、場違いすぎないか……?)


 その事実を改めて整理すると、やはりそういう結論にたどり着く。

 なんせこの場所は、選ばれた者だけが立ち入ることが許される聖域。

 それゆえに、出席者の顔ぶれがとてつもなく豪華なのだ。


 先ほどアマネさんを探している時にチラッと見えたのだが。

 ここにいる人たちは皆、この街のボンボンか名の知れた貴族。

 そして何百万部も売り上げているような小説家や、超有名役者。

 それはもう豪華すぎて、思わず二度見してしまうレベルだった。


 そんな中の極少数が、俺たち冒険者なわけなのだが。

 その冒険者の中にも、只者ならぬ顔ぶれが揃っているようなのだ。


「あの、アマネさん。あの人って確か……」

「ああ、あいつはアローズの”デューク”だな」

「あの人がですか……」


 ちなみにちょうど今俺たちのすぐそばにいるのが、このアストラで4番目に大きいFGフリーギルド、”アローズ”のギルドマスターであるデューク。


 アローズといえば、冒険者ギルド随一と言われている弓術士のギルドで、そのギルドマスターであるデュークは、アマネさんと同様ギルド最強の弓術士としてその名を馳せている人物だ。


 ちなみに二つ名は”聖弓のデューク”。

 その腕はまさに英雄クラスと言える超実力者だ。


「もしかして、あそこで話してるのも……?」

「あいつらも私と同じ二つ名持ちだな。右がジルドで左がアルベルだ」


 しかもこの場にいたのは、そのデュークだけではなかった。

 壁に寄りかかり会話をしていたのは、銃撃のスペシャリスト。

 100メートル先からでも敵を仕留めると言われる、”死眼のジルド”。


 そしてもう1人はアマネさん同様、女性冒険者の代表格。

 鉄をも砕く怪力で敵を穿つと言われている、”鉄拳のアルベル”。

 どちらも大型FGのギルドマスターであり、この街でもトップクラスの冒険者たちだ。


「すごいですね……本当……」


 そんな大物たちを前にした俺は、ただ驚くことしかできない。

 話しかけるなど愚か、近づくことさえもためらわれるほどにその風格は一流で、どれだけ自分が未熟なのかを、一目で自覚できてしまうほどに偉大だった。


(やっぱりここは、俺なんかが来るべき場所じゃない)


 そうしてまた、そんな考えにたどり着いてしまう。

 これだけ桁違いな強さの冒険者を前にすれば、こうなるのも当然だ。

 社交ダンスがどうこう言う前に、まずは自分の身の丈を改めるべきだった。


「アマネさん……やっぱり俺——」


 やっぱり俺、帰ります。

 そんなネガティブなことを、うっかり言いかけてしまったその時。


「やあ、私の愛しき剣姫殿」


 突然背後からそんな声が聞こえ、俺は慌てて言葉を切った。

 そして振り返ってみると、そこにいたのは全身が金ピカに光る1人の男性。

 頭の天辺から足の先まで、それはもうキラキラと輝いていて、一目見るだけでも目がチカチカするほどに、刺激的な見た目の人だった。


「ミッチェル……またお前か……」

「ミッチェル!?」


 アマネさんが隣で呟いたその名前。

 それを聞いた瞬間、俺の頭の中で全てが一つに繋がった。


(あのミッチェルか!)


 胸の内で思わず興奮してしまうくらい、この人は有名人。

 おそらくこの街で、その名前を知らない者はいないだろう。


 槍術士専門のFG《フリーギルド》、”ランスロット”。

 総勢300名以上の冒険者が所属する、アストラで最も大きな冒険者団体。

 そのギルドマスターを務めているのが、まさに今目の前にいるこの人物だ。


「そうっ、私がミッチェル! 君だけのミッチェルさっ!」


 そう言いながらポーズをとるこの人こそ、この街最強と言われる冒険者。

 大槍使いの超スーパースター、”蒼天の竜騎士ミッチェル”だったのだ。


「こんなところで君に会えるなんて。やはり僕たちは神に授けられし運命の糸で強く強く繋がっているのっっっっっっさっ!!!!」

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