第20話 突然の訪問者
「一つ聞きたいことがあるんですが」
アインを退けた俺の前に現れたのは1人の女性。
何とも小柄で可愛らしい、お人形のような人だった。
「えっと、俺に何かご用で……?」
俺がそう尋ねると、女性はわざとらしくその金髪をかきあげる。
そして何やら威勢良く胸を張るが……どうもイマイチ迫力が足りない。
(てかこの人どっかで……)
目を合わせてみれば彼女は、深い青の澄んだ瞳をしていた。
顔はそこそこ整っていて、美人系というよりかは可愛い系の部類。
そしてそれを全て踏まえると、どこかで会ったような気がするのだ。
「あなたレンさんですよね。私と同期の」
「同期……」
ってああ! 今やっと思い出した。
この人はアインと同様、数少ない俺の同期。
確か名前は……。
「ルルネ……だったっけ?」
「はい。お久しぶりですレンさん」
そうだった。
そういえばこの人とは、入団の時に一度顔を合わせていた。
随分と前のことだから、すっかり忘れてしまっていたみたいだ。
「……っと。それでルルネが俺に何の用なんだ?」
入団して以来、ほとんど話したことなんてないのに。
どうしてこの人は急に声をかけてきたのだろう。
そう思った俺が、率直に訳を尋ねてみたところ。
「率直に聞きます。あなたは今日の昼、アマネ様と密会していましたね?」
と、逆に俺が率直に質問されてしまった。
どうやら昼間の副作用の効果は、未だ継続中だったらしい。
てっきりアインを撃退した時点でクリアしたのかと思っていた。
「……何で突然そんなことを?」
「噂で聞いたのです。それで、どうなんですか?」
「どうなんですかって……だからあれは密会じゃなくてだな」
「密会じゃない。なら何ですか」
「はぁ……」
なんとも記憶に新しいやり取りに、思わずため息が出る。
1人になってようやく落ち着いて食事できると思っていたのだが。
こんなんじゃせっかくの美味い飯も台無しだ。
「手合わせしてたんだよ」
「手合わせ? 手合わせとは何をですか?」
「剣だよ剣。今日新調したから使い勝手を確かめてたんだ」
「剣の手合わせ? あのアマネ様とですか?」
「あ、ああ」
俺が肯定すると、ルルネはかなり驚いた顔をしていた。
それはまるで、別の世界の生き物とでも遭遇したかのような。
小さな口をいっぱいに開け、瞬きすらも忘れるほどに。
「嘘です!」
「はっ?」
「そんなの嘘に決まってます。あなたがアマネ様と剣を交えたなんて」
「い、いや。これは嘘なんかじゃなくてだな」
「いいえ嘘です。だってあの方は過去に一度たりとも、団員と剣を交えるようなことはありませんでしたもの」
「そ、そうなのか?」
俺が折り返すと、ルルネは迷わず首を縦に振った。
その様子を見る限り、彼女の言っていることは本当らしい。
ということはつまり。
今日の俺はとても貴重な経験をさせてもらったということになる。
理由は何にせよ、あのギルド最強の剣士と相見えたなんて。
よくよく考えれば、そんなのすごいに決まっているじゃないか。
「じゃあ今日の俺は、相当ラッキーだったってことか」
「仮にそれが本当ならです。絶対にありえませんけど」
完全に否定してくるあたり、どうやらこの人は信じたくないのだろう。
まあうちのFGには、アマネさんに憧れて入団した人がたくさんいるから、この手の話をして妬みたくなるのはわかる気がする。
「てかお前、わざわざそんなこと聞くために話しかけてきたのか?」
「そ、そんなこととは何ですか! これはとても大切なことなんですよ!?」
「お、おう……」
突然に声音を上げたルルネ。
先ほどのアインのごとく、噛み付かんばかりと俺に大声を浴びせる。
「この際なのでハッキリ聞きます。あなたはアマネ様と、一体どういったご関係なのですか!?」
「関係? それはまあ、同じFGの……」
同じFGの仲間です。
と、俺が答えようとしたところ。
「もういいです。わかりました」
「いや、何もわかってないでしょ絶対」
最後まで聞きもせず、ルルネはバッサリと俺の言葉を切った。
その上彼女は、小柄ながらもピピーンと背筋をいっぱいに伸ばし。
俺に向かってビシっ!! っと指を向けると、上から目線でこう言ったのだ。
「そこまで言うなら勝負です」
「はっ? 勝負?」
「明日、その勝負であなたの実力を測らさせていただきます」
「いやいや、ちょっと待てって……。いきなりそんなこと言われてもだな」
突然勝負を持ちかけてきたルルネ。
もちろん俺も反論してみようとは思ったが……。
「いいですね。認めて欲しければ明日必ずここへ来てください。それでは」
言うだけ言って、ルルネは颯爽と酒場から出て行ってしまった。
残された俺は、訳がわからずポカーンと1人椅子に腰掛けているだけ。
食事に戻れる状況でもないし、彼女を追いかける気力もなかった。
「勝負って……マジかよ……」
ボソリと呟いてはみるも、決まってしまったものが覆ることはなく。
”めんどくさい”というただ一つの感情と、ひたすらに葛藤を繰り返していた。
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