第18話 無防備すぎる剣姫
「ふぅぅ……。レン、そろそろ休憩にしないか?」
「は、はい……」
ここへ来てから1時間弱。
その間休むことなくひたすらに剣を交え続けた俺たちは、ここでようやく休憩をとることにした。
「はぁ……流石に疲れましたね」
「そうだな。私もこんなに動いたのは久しぶりだ」
そう言いつつ俺は、力抜けするように地べたへと腰を下ろした。
今までずっと剣を振るい続けていたため、すでに両手はパンパンな状態。
鎧こそ重くはないものの、激しく動いたため、かなり身体は疲労していた。
「アマネさんの鎧、結構重そうですね」
「ん、まあこれは普通の鎧とは違う素材でできているからな」
するとアマネさんも、俺のすぐ隣にペタッと腰を下ろした。
そしておもむろに鎧を脱ぎ始めると、「はぁぁ」なんて開放的な声を出し、脱いだ鎧をすぐ隣へと置いた。
「いやー、身軽なのは良いものだな」
そんなことを言いながら、アマネさんは上にぐーっとひと伸び。
それはもう気持ち良さそうで、俺もつられてつい真似しそうになる程。
が、しかし——。
「くわぁぁぁぁ」
快感のひと時を過ごしている彼女は、とてつもなく無防備だった。
何が無防備かというと、大胆に両手を上げ、身体をグッと後ろにそらしていることによって、彼女の豊満な”それ”がくっきりと浮き彫りになっていたのだ。
「ふぅぅぅぅ」
黒のインナー越しだからこそ滲み出る、そこはかとない色気。
一度それに気づいてしまえば、意識をそらすことは決して叶わない。
(気まずい……)
どうしてか俺の視線は、あちらこちらに泳ぎまくる。
こんな状況の中で、自分はこのままここにいて良いのだろうか。
そんな疑問すらも浮かんで来て、俺の頭の中は大大大大大渋滞。
「あの……」
だからってそれを指摘するわけにもいかず。
落ち着かない俺の心体は、プカプカ浮いてどこかへ飛んでいきそう。
というかむしろ、どこかへ飛んで行ってくれた方が楽な気さえした。
「レンも鎧を……ん、どうした?」
「ああいや……」
声をかけられた俺は、とっさに視線をずらした。
今まで無意識に胸元を見てしまっていたが……。
もしかして今ので気づかれてしまっただろうか。
「…………」
露骨に視線をずらすあたり、怪しすぎないか俺。
てかそもそも俺は、別にそこまで下心のある人間ではないはずなのだ。
なのにこんなにも意識してしまうなんて……もしやアマネさんのこと……。
なんて馬鹿なことを考えそうになり、俺はとっさに思考を払った。
今は自分がアマネさんのことをどう思っているかなんて関係ない。
それよりもまずは、この落ち着かない心をどうにかしなくては。
みたいな感じで俺が色々と思考を凝らしていると——。
「も、もしかして、私の身体に興味があるのか?」
「はい!?」
突拍子のないことを突然言われ、俺の声音は上がりに上がった。
と同時に今まで考えていた色々なことが、遥か彼方へとすっ飛んで行って。
まるで電気ショックでも食らったかのごとく、俺は勢いよく肩を弾ませた。
「いきなり何を言いだすんですか!?」
冷や汗が滲み出るのを実感しながら、即座にアマネさんに折り返す。
しかし彼女はすでに、冷静に質問に答えられるような状態ではなかった。
「す、少しくらいなら……いい」
そう呟いたかと思えば、胸元においていた手をおもむろにどかし。
わざとらしく胸を突き出すと、恥ずかしそうに視線を斜め下に避けた。
頬は完全に高揚し、発熱してるんじゃないかと思うほどに赤い。
おまけに首元からは、運動したことによる汗が、色っぽく滴り落ちていた。
「は、恥ずかしいから……早く……」
震えるような声で呟いた彼女は、ふと目を瞑る。
その唇は震えていて、まるで自ら望んでそうしているとは思えない。
しかしながら、どこか俺を待っているような、そんな思いも見て取れた。
でも——。
だからと言って、このまま流れに流されるわけにもいかない。
なぜなら俺たちは同じFGのメンバー同士であり、今はお互いに剣を交えている最中でもある。
そんな状況で間違いを起こせば、きっと後から後悔するだろう。
それにもしそんなことが誰かに知れ渡ったとしたら、確実にアマネさんの名前に泥を塗ってしまう結果になるに違いない。
そんなのはダメだ。
いくら心を揺り動かされてるとはいえ、今コトを起こすのは愚行でしかない。
そんな場の流れに飲まれるような男に、俺は死んでもなるわけにはいかない。
それに——。
それに俺は気づいている。
この人が冒険者きっての高嶺の花。
全ての男性冒険者が憧れるアイドルだということに。
そして今この場にいるのは、俺たち2人だけではない。
明らかに俺たちの様子を伺っている人たちがいるということに。
ジーーーーーーーーーー。
剣技場の入り口に無数にきらめく謎の眼光。
それらは全てうちのFGに所属する男性冒険者たち。
まるで獲物を狙う狼のようなその視線からは、底知れぬ殺意すらも感じ取れ、仮に俺が何かしようものなら、一瞬でズタズタにされるのは火を見るより明らかだった。
ジーーーーーーーーーー。
背中を焼かれるような感覚を覚えながら、俺は1人その場を立ち上がる。
そして未だ無防備に前を開けるアマネさんに、静かに鎧を被せたのだった。
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