第15話 出発と到着

 翌日の早朝。

 なんとか早起きすることができた俺たちは、荷造りを済ませ村を出た。

 その際お世話になった人たちに一言お礼を述べたところ、迷惑をかけてしまったのにもかかわらず、みんな快く俺たちの出発を見送ってくれた。


 短い時間だったとはいえ、本当にこの村の方々には助けられた。

 初めこそ”依頼を受けた冒険者”ということで、色々と面倒を見てくれていたのだろうが、仮に俺たちがこの村の依頼を受けなくとも、あの人たちは分け隔てなく俺たちに接してくれていたと思う。


 それくらいこのアカゲ村は、温かい人たちばかりだった。

 今回は依頼ついでに立ち寄ったが、今度来る時は旅行などで来たい。

 その時はアインも誘って、またあの旅館で寝泊りさせてもらうことにしよう。


「ふわぁぁ……ふぅ」


 ちなみに今は、アカゲ村と王都アストラのちょうど中間地点くらい。

 昨日までと同様、俺が荷馬車の縄を持ち、街を目指している最中だ。


「ふわぁぁ……ふぅ」


 また。今日はこれで何度目だろう。

 ちゃんと寝たつもりなのだが、どうもあくびが止まらない。

 おそらくは遠征の疲れなどが、今になって現れて来ているのだと思う。


 あの後。

 俺とアマネさんが同じ布団の中で、沈黙を噛み締めていた頃の話。


『明日は早いので、もう寝ましょうか』

『う、うん』


 こんなやり取りを最後に、俺たちは各々眠りへと着いた。


 ちなみに姿勢は横を向いたまま。

 もちろんアマネさんと向かい合って寝たりはしていない。


 とはいえ、やはり女性と同じ布団で寝るのは難しい話で。

 結局俺は、あの後1時間ほど意識がはっきりした状態で、目の前の壁と終わりの見えないにらめっこをしていたわけだ。


 結果的には寝れたのだが、それでもあの1時間はなかなかしんどくて。

 これではアマネさんにも迷惑がかかるな……なんて罪悪感すらも覚えていた。


 きっとアマネさんだって、この状況は気まずいだろうし。

 できるだけ気配を消して、睡眠の邪魔にならないようにしよう。

 そう思いながらも、俺は自分が寝る努力を精一杯していた。


 しかし——。


『スー……スー……』


 俺が眠りにつくよりも先に、後ろから小さな寝息が聞こえ始めた。

 恐る恐る振り返ってみれば、そこにはぐっすりと眠るアマネさんが。

 しかも向こうを向いて寝ているのではなく、なぜかこちら側を向いて眠りについていたのだ。


 その時の俺は正直焦った。

 どうしてこんなにも簡単に寝ることができるのだろうと。

 少しは身構えたりしないものなのだろうかと、疑問でいっぱいだった。


 しかしよく考えれば、それもごく自然なことだと思った。

 そもそもアマネさんは、一睡もしないまま今回の遠征に来てしまったわけで。

 それでもあれだけの活躍をしたのだから、相当に疲れているのは間違いない。


 なんて冷静になれたあの時の俺は偉かった。

 普通なら眠気がリセットされるくらいに動揺するところだが。

 そういう思考にたどり着いたおかげで、あまり気にはならなかったのだ。


 何がともあれ俺たちは、無事朝を迎えられたわけだ。

 ぐっすりとはいかなくとも、しっかりと身体は休められたし。

 残り半分ほどの移動は、なんとか頑張って俺が荷馬車を持ち続けるとしよう。


「ふわぁぁぁ……」


 でもまあ。

 あくびだけは、どうしていても出てしまうのだが。



 * * *



 アストラの街に到着したのは、お昼より少し前のこと。

 それから冒険者ギルドで荷馬車の返却手続きをして、受付で依頼完了の報告をして……なんて色々とやっているうちに、気づけば時刻は12時過ぎに。

 昨日からまともな食事を摂れていないということもあって、俺たちのお腹はすでにペコペコだった。


「ふぅ、お腹空きましたね」

「そうだなぁ」


 一応依頼は完了しているので、帰宅してもいい状況。

 しかしせっかくなので、アマネさんと昼食を食べてから帰ろうかと思う。


「もしよかったらお昼ご一緒しませんか?」

「ひゃい!? ご、ご一緒って……私と!?」

「はい。一応打ち上げということで、ご一緒できたらなと」

「な、なんだ、そういうことか……」


 急に驚いたかと思えば、なぜか落ち込むアマネさん。

 もしかして今の誘いを別な意味で捉えてしまったのだろうか。

 何にせよ、色々と反応に困るのでやめていただきたい。


「えっと、とりあえずどこかお店に入りますか」

「う、うん、それもそうだな」


 ということで、俺たちは店を探して商店街に。

 あそこならたくさん食事できるところがあるし。

 良さそうな店を見つけて、適当に済ませるとしよう。


「ちなみに。何かリクエストとかあります?」

「リクエストか。んー、特にはないが。できれば軽いものがいいかな」

「なら手軽に食べられるカフェとかにしましょうか」

「か、カフェ……!? レンと2人で……!?」

「あの、よくわかりませんけどやめてください」


 謎にニヤつくアマネさんに、俺は小さく嘆息した。

 確かに男女でカフェというのは、何かありそうな気もするが。

 俺的には昼食を済ませられれば、正直どこでもいいのだ。


「レンとカフェ……いひひ」

「……いいから早く行きましょう」

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