第4話【トラック】

「俺がそっちの世界に足を踏み入れたらもう元の世界に戻れなくなるの?」

 非常に大事なところなので俺は重ねて念を押すように訊いた。半裸の美少女は「はい」とはっきり返事した。これでハッキリした。

「俺が元の世界に戻れなくなるって事は『神隠しに遭った』とかで、俺は行方不明になるのか?」

「いいえ。はっきりと片が付きます」

 またもや〝ハッキリ〟。

「それ、どういうこと?」

 半裸の美少女は口を一旦真一文字に結んだが、

「お亡くなりになった、ということになります」と口にした。

「俺って死んだことになるの⁉」

「はい……、〝トラック〟という存在に轢かれて、というのが儀式となります」

「じょじょっ、冗談じゃないよ!」

「べつに〝トラック〟じゃなくても構いませんが、その若さで〝病死〟というのもいささか不自然なので」

 なんだそれ!

「『そちらの世界を捨ててくれ』。わたし達非道いことを言っていると思います。だけど〝そちらの世界〟と〝こちらの世界〟、あなたの人生においてあなたがより輝ける世界はどちらか。その選択権はあなた御自身にあると考えていただけたら、と思います」


 詰まる。どうしたらいいのか詰まる。こっちの世界じゃ家は没落、並より若干下といった階級。俺自身も勉学で一発逆転とはいきそうもない平々凡々かあるいはそれより若干墜ちるかという能力。

 しかし捨てろと言われて簡単に捨てられるのか? この今いる世界も。


 俺は少し不埒な質問をしてみた。

「俺がそっちの世界を選んだらキミは俺の恋人になってくれるのか?」と。

 俺は注意深くその様子を観察する。半裸の美少女は頬を染めていた。そして蚊の鳴くような声で「はい」と返事をくれた。

 これは空耳か?

 自分で自分を信じられない俺はもう一度同じことを訊いた。

 半裸の美少女はさっきよりも少しだけ大きな声で「はい」と返事をくれた。間違いないぞ!


 しかしさあて、そういうことになるならいよいよ迷うぞこれは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る