第3話【あなたはチート勇者です】

「今の、言ってることの意味が解らなかった」

「チートのことですか?」

「そう、それ」

「剣を振るえばどんな魔物も真っ二つ。向かうところ敵無しの完全無欠の存在です」

「それって頑張れば、だよね? 普通」

「いいえ。あなたがこちらの世界に来るなり即究極の存在へと昇華できるのです。なにしろ〝勇者の扉〟に選ばれた存在ですから」

「嘘」

「いいえ、嘘ではありません。そういう存在ですから当然女性たちはあなたを放ってはおきません。わたしは今運良く〝勇者の扉〟の出現に偶然立ち会えたのですが、わたしがあなたを独り占めすることはおそらくできないでしょう」

 それは正に〝ハーレム〟というやつじゃないか!

 なんだったけなー、なんだったけなー、なんかの宗教であったぞ。こういう天国。


「信じられないかもしれません。でも信じてください。勇者は神聖な存在です。その方にわたしどもが嘘をつくことは許されません。どうかわたしを信じてこちらの世界に足を踏み入れてください」


 その目は吸い込まれそうな透き通った目で、視線をまったく動かさずまっすぐ俺を見ていてとても嘘を言っているようには見えなかった。


「そっちの世界に足を踏み入れたらこっちの世界に戻れるの?」瞬発的に浮かんだ疑問が口から飛び出した。

 半裸の美少女の顔に一瞬動揺が走ったような気がした。



「——戻れません」半裸の美少女はしかし静かに言った。


 不思議といえば不思議だが、この人は信用できる——。そう確信できてしまった。

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