サマーリセット

三石 警太

サマーリセット

この景色を覚えている。

そんなことが、たまにある。

この道、この建物、この心境。前にも見たような。

そんなことが。

2度目の人生だ、って漠然と思うことがある。

デジャヴ、もしくは、夢。

でもいつからか確信したことがある。

この世界は狂っている–––。

ジリリリリ。と目覚まし時計が鳴り響く。

時刻は6:57分。

父はもう出社し、母は朝ごはんを作っている。

ふんわりといい匂いが漂ってきて、

あ、今日はホットケーキだな、

って気づく。

そして7:00を回り、朝のテレビニュースが7:00のお知らせをする。

直後、母さんが叫ぶ。

「七時よー、起きなさーい」

僕は、「はーい」と眠たげな声を返し、布団を被ったままのそのそとダイニングに向かう。

食卓には、予想通りホットケーキ。

ホットケーキシロップが無いからとハチミツで代用。

僕はしょうがなくハチミツをかけてホットケーキをムシャムシャと食べる。

「いただきまーす」

ホットケーキにハチミツは、正直合わない。

身支度をし、家を出る。

うちはマンションだから、エレベーターがある。

運悪く、一階下に止まり、行ってしまった。

「今日はツイテないなー」

僕は嘆きながら、テキトーにスマホをいじる。特に用はないのだが。

すると友達からメッセージが届いていた。

『お前ノート書いた?』

はっ、として思い出した。

うちの高校はノートという、いわば日記のようなものを提出しないと罰則として反省文を書かされる。それがなんとも苦痛なのだ。

さんきゅ、とメッセージを返し、今一階に到着したばかりのエレベーターを横目に、立ちながら日記をつける。

7/10(水)、と。

日付を書いたところでエレベーターが来た。

続きは学校に着いてからにしよう。

音楽が鳴り響くイヤフォンを装着し、駅に向かう。

歩きスマホをしていたら電柱にぶつかりそうになってしまった。

車にも轢かれそうになる始末。

それでも歩きスマホを辞めない。

やがて駅に着き、電車に乗り、学校に向かうバスに乗った。

お気に入りの曲、「風になって」が流れた直後、肩を叩かれた。

「よっ」

「ハラちゃんかよ、今いいところなのに」

ハラちゃんは小中高と同じ学校でクラスさえ違えど、一番仲が良い幼馴染だ。

「そうなの?ごめんごめん」

角刈りの人の良さそうな顔がニンマリ歪む。

これは、始まるな。

「それよりさ、今月のムー見た?やばいぞ…!」

始まった、ハラちゃんのオカルト話。

ハラちゃんは大のオカルト好きで、オカルトネタとなったら周りが見えなくなるぐらいのめり込む。

「俺らはな、ゲームのプレイヤーで、操られてるんだって!」

へえ、と適当に受け流す。こんなことならイヤフォン、外さなきゃ良かった。

「でな、科学的根拠もあって、イギリスのなんとかジャーナルも公式に発表しててさ、それでさ…」

ハラちゃんの話は、だいたい終わらない。校長先生の話並みに終わらない。だから、いつも聞いているフリをするが、それにさえ気づかない。

僕らを乗せたバスが学校に着き、ハラちゃんは尚も喋り続けていた。

僕は呆れつつも、学校に一緒に向かった。

こんなこと日常茶飯事だ。

クラスは違うので別れる時には、いつの間にかオカルト話も終わっていて、「じゃあ放課後廊下で待ってるな」なんて言い捨てて自分のクラスに入っていった。

「まあ、楽しいからいいけど」

と独り言を言いながら時計を見ると8:23分で、いつも通りの時間。

と思っていたら、横から僕を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと、同じクラスの本田さんだった。

「あなた、気をつけて。今日、あなたは死ぬわ」

と言って、自分の席に戻っていった。

なんなんだ?

と、不思議に思いながら僕も自分の席に座った。

寝たり、板書したりを繰り返しながら、昼休みになった。

昼休みには、隣のクラスに行って昼飯を食べながら大富豪をするのが習慣となっている。

「もう、夏休みになるなー」

とハラちゃんが言う。

「そうだねぇ。夏休みになったら、大富豪できないねぇ」

と、天然のカガミが言う。

僕らは3人でいつもトランプをする。

今日は、僕が大貧民で、カガミが平民、ハラちゃんが大富豪だった。

やっぱり今日はツイテない。ここまでツイテないと、本田さんが言った言葉が引っかかる。

まさかね–––。

そんな突拍子も無いことを言われたって、信じろと言うのが無理な話である。

しかし、本田さんは無口な人で、それ故に、あの言葉に妙な説得力が帯びていた。


放課後、僕とハラちゃんはキラキラと輝く太陽の下を歩いていた。

学校からは、歩いて帰るのが僕らの暗黙の了解となっている。

アスファルトになっていてT字路がたくさん連なり、歩きスマホをしていたら轢かれかねない。

「今日もアチーな」

「だねー、ムーによるとヨハネの黙示録がー…」

ほんとに、こいつはオカルトに毒されている。

そう思った瞬間、横から、気を失ったドライバーが運転するトラックがこっちに突っ込んできた。

ハラちゃんは間一髪かわしたが、僕は正面衝突した。

即死だった。

頭上には、建設中の建物の鉄筋が僕を嘲笑うかのようにぶらぶらと揺れていた。

『記録的な猛暑です。運転している方は、特に熱中症に気をつけてください』

トラックからは、虚しいラジオが鳴り響いていた–––。

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ジリリリリと目覚まし時計が喚き散らす。

6:57を二つの針が差している。

なんだか酷い夢を見たような、その記憶は砂糖が水に溶けるように思い出せなくなっていった。

この匂い、ホットケーキかな?あれ?昨日の朝もホットケーキだっけ?いや、違う。昨日は納豆だ。

7:00を告げるニュース番組に呼応するように、母さんが声をかける。

「七時よー。起きなさーい」

聞き慣れた声がする

のそのそと声のする方に向かいながら、はーいと答える。

予想通り、ホットケーキ。シロップの代わりにハチミツ。

シロップが無いの、知ってる。おかしいな。

最近はホットケーキ食べてないのに。

身支度を整えエレベーターに向かう。

一階下に止まり行ってしまう。

メールが来ているのに気づき、その文に見覚えがあるような気がした。

ノート、書かなきゃ。

7/10(水)と書き、エレベーターが来る。

歩きスマホをしながら、駅に向かう。

「デジャヴ 夢」

と検索した。

果てしない検索結果に驚き、そのページを閉じる。

電車に乗り、バスに乗る。

そこで聞いているウォークマンのディスプレイに「風になって」と表示された瞬間、"来る"と直感した。何が来るかもわかっていないのに。

肩を叩かれ、振り向くとハラちゃんがいた。

「よっ」

「お、おう」

なんだったんだ、今の。

「元気ねえな、あっそれよりさ、今月のムー見た?ヤバイんだよ!」

ハラちゃんのオカルト話が始まった。

「俺らはな、ゲームのプレイヤーで、操られてるんだって!」

この内容、知ってる。

「でな、科学的根拠もあって、イギリスのなんとかジャーナルも公式に発表しててさ、それでさ…」

なんなんだよ、一体、どうなってるんだ?

「なあ、ハラちゃんってさ、オカルトに詳しいよな、放課後相談したいことがあるんだ」

「え、あ、うん。わかった」

話を遮られたことに調子を狂わせながら、返事をした。

僕らは別れ、自分はクラスの時計を見た。

8:23。いつも通り。

と、その時本田さんが話しかけてきた。

「あなた、リセットされてるわ…。」

そう、言い残し自分の席に戻った。

へ…?

僕は理解が出来なかった。


昼休み、僕とハラちゃんとカガミはトランプで遊んでいた。

大富豪をし、僕が大貧民でカガミが平民、ハラちゃんは大富豪。

この順位、知ってる。僕の手札も。

妙な寒気に襲われた。

放課後、僕とハラちゃんは歩いて帰っていた。

「相談って何さ」

「ああ、実はな。今日を一回"過ごした"気がするんだよ」

「は?どういうこと?」

オカルト好きのハラちゃんでさえ理解が難しいようだ。

「見たことあるんだよ、何もかも。」

そう言った瞬間、脳裏にあるシーンがよぎった。

朝、時計を見ていた時に本田さんに言われたこと。

しかし、そのセリフは違っていた。

「あなた、今日死ぬわ…」

と、その時トラックが僕らに突っ込んできた。

ラジオは熱中症に気をつけるよう呼びかけていた。

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ジリリリリと目覚まし時計が鳴り響く。

聞いたことがある音。何回も。

今日の朝ごはんはホットケーキ。

少し前に家を出るとエレベーターはちょうどうちの回に止まっていた。

学校までのバスに乗ると「風になって」が流れた瞬間ハラちゃんに肩を叩かれる。

「よっ」

と定型文を投げかけられ、よっと返す。

慣れたもんだ。

「なんか、気分良さそうだね、あっそうそう。ムー読んだ?ヤバイんだよ…!」

読んではいないが、なぜか内容は知っている。

「読んだよ」

ハラちゃんはキョトンとして、

「…珍しいな、お前がムー読むなんて」

内容は?と聞いてきたので、疑っているのだろうか?

浮かんできた単語を並べ立てる。

「俺らはゲームのプレイヤーで、操られてるんだろ?」

お、おう。そうなんだよ。

と、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

「で、科学的根拠もあって、イギリスのなんとかジャーナルも公式に発表してて」

「そ、そう。…そうか!お前もムー友だなあ!」

勝手に1人でハラちゃんは盛り上がっている。

バスは最寄りのバス停につき、僕らはクラスで別れた。

クラスの時計は8:23。

本田さんに話しかけられる。

「気づいてきたようね、あなたはリセットされている…。」

そこでビビっと体中に電撃が走ったように、もやもやした気持ちが確信に変わった。

「僕は、リセットされているの?」

「ええ、そうよ」

自信たっぷりに本田さんは答える。ニンマリと不気味に笑う。

「どうする?このゲームに、逆らってみる?」

「逆らうって、誰に?」

僕は想像もつかなかった。

「私も、よくはわからない。でも、漠然とわかるのよ。あなた、ムーは見たことある?」

はっ、として朝のバスでのハラちゃんとの会話を思い出した。

あの時は、頭から単語が沸騰した水のように沸いて出た。

あれはリセットされたから覚えていないだけで、リセットされる前のことをなぜか脳は覚えていた?

僕はなんだかグラグラした。

「ねえ、どうかしたの?」

「ああ、ごめん本田さん。朝、ムーの話をしたんだ、友達と…。その時、知らない単語が次々に出てきて…」

「リセットされてるいい証拠ね」

そこでチャイムが鳴った。

帰りは、ハラちゃんに先に帰ってもらい、放課後空いた教室で本田さんと2人きりで話していた。

「つまり、あなたはぼんやりと今日起きることがわかっていたのね?」

確信が持てなかったが、朝なぜか早くエレベーターの所に行かねばと無意識のうちに考えていた。

ハラちゃんが肩を叩くのをわかっていたし、内容も覚えていた。

昼休みの大富豪も順位や手札のカードに既視感を感じた。

漠然とだが。

「うん。でも、不思議なんだ。何が不思議って、既視感があることはもちろんなんだけど、今本田さんと話していることには何も感じない。"初めて"って感じ」

一瞬、本田さんは少し眉間にシワを寄せ、でも少し経つと合点がいったようだった。

「あなたは、これまでのルートとは違う道を進んでいるのよ」

「と、言うと?」

僕は、本田さんがこんなにいきいきしている姿を初めて見た。

本田さんはいつも1人で、他人とは距離を置いていた。

人とはわからないものだ。

「あなたは違う分岐をして、今このシチュエーションに至っている、ってこと」

「なるほど」

と、とりあえず言っておく。

そんな現実離れしたこと、すぐには受け入れられない。

「リセットされたってことは、つまり」

と、そこで僕は本田さんの話を遮った。

「なんでそこまでリセットにこだわるの?他にも色々考えられるでしょ?例えば…うーんと…タイムリープ…とか?」

我ながら、説得力が無い。

「私が、リセットされたからよ」

え?

言葉にならない声が出た。

今日はなんだか、現実味がない。

「私も、その経験があるの。ぼんやりとだけどね。で、ムーの話を見て合点がいった。この世界は仮想現実で、シミュレーションされている世界だ、って話に」

だから、僕にあんなに執拗に迫るのか。"リセット"されている、って。

「その頃から、私のカラダはおかしくなった。人がね、数字で見えるの」

は?

もうダメだ。本当に現実とは思えない。

僕が夢を見ているか、本田さんが狂っているのか、1つに2つだ、いや、両方かもしれない。

「だから、私は人と距離を置いているの。うまく、喋れないし」

だから、本をいつも読んでいるのか。

「でも、本田さん、今は喋れているじゃん」

と、僕が答えると、本田さんは少し顔が赤くなった。

「この話題は、他人事で済ませられない、気がするから」

「じゃあさ、なんで僕がリセットされてるってわかるの?」

「あなただけ、数字がぐちゃぐちゃなのよ。周りの人とは、まるで違う」

へ、へえー

と、少々恐怖を募らせた。

「でさ、肝心なところ、気になるんだけど。あ、でも覚えてないのか…」

「何?」

本田さんは片眉を吊り上げて僕の言葉を待っている。

とても夢とは思えぬ精巧さで否が応でもこれは現実だって打ちひしがれる。

しかし、目の前にいる女子がリセットされたことがあって、しかも人が数字に見えるなんて…そんなことがあるのか?

「リセットって何で起きるの?」

本田さんは即答した。

外は赤い太陽の落ちかけた光で覆われ、本田さんの横顔を赤く染め上げた。

「死ぬことで、リセットされる」

な、

僕は言葉が出てこなかった。

ということは、僕はもうすでに何回か死んでいるのか?

「なんで、即答できるんだよ」

本田さんはさも当然のように答えた。

「私がリセットされたとき、記憶は毎回、長い時でも夕方までしか無かったの。うっすらとなんで死んだかもわかったような気がしていたけど、忘れちゃった」

じゃあ僕は、ハラちゃんと帰っていたら、死んでいたのか?

そこで僕は青ざめた。

ハラちゃんが、事故に巻き込まれてはいないだろうか?

「ねえ、あなた。数字が、またぐちゃぐちゃに…」

「ごめん!本田さん!僕、行かなくちゃ…!」

本田さんを置いて、僕は飛び出した。

ハラちゃんのことしか、僕の頭の中には無かった。

ただ彼の無事を祈っていた。

薄暗い廊下を走り、右に曲がる。

だだっ広いホールを足を少し滑らせながら方曲線を描くように出口に向かう。

2つある扉のうち、右の扉を突っ切り、ピンク色の階段を2段飛ばしで上がる。

アスファルトを走り抜け、道路に出る。

右にそびえ立つ自販機を横目に路地に入り、ハラちゃんと歩いて帰るルートに出た。

何か事故があったなら、何かしら、あるはずだ。

そう思い、ここまできたが、その道は、これまでと同じ姿をしていた。

ホッとしたのもつかの間、人がぐしゃりと音を立てて落ちてきた。

僕は、この生々しい音に感情を失った。

汗が止まらなかった。

これは、死人を前にして、その恐怖から出ている汗か。

僕がこれから、死んでリセットされることに対する汗か。

はたまた、単純な暑さからくる汗か。

僕が硬直していると、頭上から雨"ではない"モノが降ってきた。

僕を鉄筋が貫いた。

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ジリリリと目覚ましがなる。

僕は、死んだ。

確信がある。

それも、霧に覆われるように、鮮明ではなくなっていった。

僕は何回も、何回も、脳に刻むように、念じた。

僕は死んだ。僕は死んだ。僕は、死んだ。死んだ。死んだ。死んだ、死んだ死んだ死んだ…。

僕は、死んだ。

今日の朝ごはんはホットケーキ。わかってる。

少し前に家を出るとエレベーターはやはりうちの回に止まっていた。

「風になって」が流れた。

ハラちゃんが、来るか?ほら、きた。

「よっ、あれ、どうしたんだ?顔色が悪いぜ?」

「いや、なんでもないよ。ちょいとばかし死んだだけだ」

「…おまえ…、さては…ムーを読みだしたな?」

どうしたらその思考回路になるんだ。

僕は心底呆れた。

しかし、ムーの言っていることは、案外的を得ていたのかもしれない。

たしかに、僕は死んだのだ。

「いつのムー読んだんだ?今月のムーは読んだ?ヤバイんだよ…!」

読んではいないが、話は合わせておこう。

ここで否定をしても後が面倒くさそうだ。

「読んだよ」

ハラちゃんは目をキラキラとさせて、

「どの話が一番良かった?」

と聞いてきたので、

「俺らはゲームのプレイヤーで、操られてるって話」

と、頭に浮かんだ文をコピーペーストする。

ハラちゃんは尚一層目をキラキラさせた。太陽にも負けないほどに。

「で、科学的根拠もあって、イギリスのなんとかジャーナルも公式に発表してて」

「その話、最高だよな!やっぱり、そうかあ、おまえがムーを読む時代になったのかぁ」

勝手に1人でハラちゃんは盛り上がっている。

正確に言うと、"時代"ではなく、"ルート"と言った方が良いだろう。

バスは最寄りのバス停につき、僕らはクラスで別れた。

クラスの時計は8:23。

本田さんに話しかけられる。

「あなた、リセットされてるわ…」

「君は…」

僕は本田さんの顔を見た瞬間に、朝起きた時に覚えていたことを思い出した。

「僕は、昨日…いや、今日か。君と話して…そのあと、死んだ?」

無責任なキーンコーンカーンコーンというチャイムの音が僕らを包み込んだ。


放課後、既視感のある光景で、僕と本田さんは話し合っていた。

「このルートは、初めてじゃないようね」

「うん、なんとなくだけど。君と前回もこうした気がするよ」

そして、何故か死んだ。

ハラちゃんは、バスで帰るよう伝えた。

なぜか、そうしなければという使命感が僕を突き動かした。

「ねえ、本田さんはさ、なんでリセットが起きるんだと思う?」

「そうね、私が思うに、これは"バグ"だと思うの」

予想と違う答えに驚いた。

僕はてっきり何かを成し遂げるため、とか言うと思っていたのに。

現実は世知辛い。主人公にはなれない。

「バグっていうと…」

「誰もが死ぬたびにリセットしていては、その日死ぬ人はどんどん理解する。そんな人がたくさんいたら、もっとこの現象が有名になるはず。でも、こんなこと言うのは、ムーとか信憑性の無いソースばかり、だから、バグなのよ。一定の確率で起きる、命の巻き戻し」

わかったような、わからないような。

この状況に既視感があるからと言って、こんなに饒舌な本田さんを見ると違和感しか感じない。

いつもは本ばかり読んでいるくせに。

「このバグ、最悪だよ。」

朝起きるときは決まって何か悪夢を見た時のように不快感に苛まれる。

何が起きるかわかると言うのは、誰かに操られているようで気分の良いものでは無い。

そして、確実に、死ぬ。

「本田さんはどうやってリセット現象から解放されたの?」

指をこちらに向けて決めポーズのようにドヤ顔で言い放った。

「死んで死んで死にまくるのよ。そして、どうにかして生き残るしか無いわ。その日を乗り越えれば、リセットはなくなる」


そして、僕は死に続けた。


下校途中に、車に轢かれた。

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『男子高校生が通り魔にあい、死亡しました』

ラジオが、僕の、死を告げた。

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「なあなあ、知ってるか?ケンジ、隣の高校のヤンキー集団が帰ってる高校生リンチしたらしいぜ」

「は?ヤバイな、俺らも絡まれないように気を付けようぜ」

section8.failed.

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「おーい、タケルゥ、1ちゃんをつけとくれ」

「もう、じいちゃん、リモコンはじいちゃんの膝の下だよ」

「おお、あったあった」

《男がナイフで暴れ回れ、男子高校生1人が意識不明の重体の模様です》

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………–––。

section57.failed.

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ジリリリと音が鳴り響く。

頭にこだまし、耳障りな音を立てて騒ぐ時計を黙らせる。

何度死んだのだろうか?

なぜ僕は死ななければならないのか?

ゲームのような命の軽さに辟易した。

否が応でも、死んだことはわかった。

もう、念じなくてもリセットされていることはわかる。

前日のことならば、辛うじて覚えられるようになってきた。

本田さんはここまではリセットしなかったであろう。

僕は一生このループを繰り返すのだろうか。

僕は、学校をサボることにした。

もう、誰とも会いたくない。

なるべく、何もしたくない。

生きていることが辛すぎる。

そうして引きこもっていると、放課後の時間になり、日が暮れ、何度見たことかわからぬ夕暮れの太陽がこちらを見つめてきた。

僕は大体この時間に殺される。

しかし、この日はあっという間に、過ぎていった。

拍子抜けするほど容易く、僕はループから抜け出した。

家から出ないと、たしかに何事も起こらないが、そんなの何回も死ななければわからないじゃないか。

この世の中は、狂っている。

なぜ、この運命にしたのか。

生き地獄に落としたのだから、"本当に"死ぬときぐらい天国に連れて行ってください。

お願いします。神さま。

僕は、喉元に包丁を突き立て、静かにめり込ませていった。

デジタル時計は7/11(木)00:07と表示されていた。

section1.

start

ジリリリリ。と目覚まし時計が鳴り響く。

時刻は6:57分。

何気なくスマホを見ると、親友のハラちゃんからメッセージが届いていた。

『アラタ、ムー読んだ?』

今日は7/10(水)、昨日はムーの発売日だ。

しかし、僕はムーを読んでいない。

だから、ムー読んでないって

と返信し、僕は母に呼ばれダイニングに向かった。

–end–




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サマーリセット 三石 警太 @3214keita

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