第2話

「ルシア様。遊びに興じるのはいいですが、少しは書類に目を通してくださいね」

「断固として断る」


帝城にある自室に戻った俺は、俺専属メイドのフィリアに説教をされていた。

彼女は俺が帝都で暗躍している一団のナンバー2。

俺の遊びに付き合ってくれている彼女に俺は遊ぶなど言われた。


そもそも、暗躍とは遊びではない。


「俺はなフィリア。暗躍をしてみたかったんだよな」

「それは毎度聞いております。私が言いたいのは、あなたはもう少し皇子としての自覚を持つべきと言いたいのです」

「はっ!皇子なんてのは肩書きだけで十分さ。皇子としての名声が上がれば、激務に追われる苦痛な日々は目に見える。わざわざわそんな事、するわけが無いだろうフィリア?」

「あなたって人は。能力はあるのに、もったいないですよ?」

「そうかもな。だが、自分で望んでやっている事だ。然程迷惑は掛けずに、皇子としての地位をほどほどに享受する。これも一興だろ?」

「物は言い様ですね」


フィリアなりに俺の人生を危惧してくれたのはわかるが、それは余計なお世話というものだ。


確かに俺は帝都では、いや。帝国内においての俺の評判は底辺をいっている。

放蕩皇子など揶揄されているのは知っている。

だが俺はそんな事は気にしない。

皇子としての責任を果たしていないとよく言うが、まぁ事実その通りだが、じゃあお前らは何の責任を果たしているのかと問いたい。


「あなたの行いは、他の皇族を貶める行為になりかねますよ?」

「安心しろ。俺以外の上兄弟3人は優秀だ。帝国で、あいつらの評判は落ちる事はないさ」


そう、ルシアは4人兄弟。


その内の3人は皆、帝国内では評価が高い。


彼らに会う度に、俺は何度も血の繋がりを疑った。


実は俺だけ養子なのでは?

と本気で調査した事があるくらいだった。


しかし、結果は俺と彼らの血は繋がっているという事。


民や貴族が納得いかないのはいい。

だが、一番納得がいかないのは俺なのだ。


「まぁ確かに、私だって貴方の血筋には疑問を抱いていますが……、っと上手く話を晒さないでください!もう、油断も隙もありはしない」


いや勝手に話逸らした気がするが?


しかしここで意義を唱えようものなら、俺の関節があらぬ方法に曲がる未来は想像に難くないので堪えた。


「だか、まぁ、流石に何もしないのも、民達の評判通りになるのも嫌だな。俺はあくまで表上はダメでも裏では神だ。分かったよ。少しだけ仕事をするさ」

「動機が不純すぎますよ?」


そう言いつつフィリアは日に日に溜まった膨大な資料の中から無造作に一枚取り出した。


だが、そこは流石俺の専属メイド。

無造作に見えるがしっかりと取捨選択して資料を選んでいる。


フィリアの仕事はメイドとして、完璧に近い。


「うむ、なになに。最近帝都で怪しい者の動きあり?……これは面白そうだ。フィリア、詳しく」

「はい。近々帝都で、祭りが開催されるのはご存知ですね?」

「無論だ」

「その祭りに向けて、帝都中が活気に包まれていますが、一方、モンスターの数が増えているとか、悪徳貴族が怪しい商売をしているとか」

「ふむ、何か関係がありそうだな」

「はい」


近年モンスターの数が増えている事は当然知っている。きっと大事にはならないだろう。


問題なのは悪徳貴族の怪しい動きとやらだ。


ちなみに祭りとは、帝国の建国記念日を祝う祭りの事だ。毎年この時期になると、他国からの商人や人々が帝国に来たりして、帝国ならではの文化や食べ物を楽しむ。

金の流通も頻繁に行われる時期だし、商会と関係を築く貴族が動き出すのは納得がいく。

だが、当然中には宜しくない事を企む者もいるのだ。


「貴族の家は?」

「プラネイル侯爵です」

「げっ、マジで」

「マジです」


プラネイル侯爵は、豚侯爵としての知られている。


粗野、不潔、快楽主義の三拍子揃った、ある意味俺より評判が悪いやつである。


しかも奴は奴隷商人と繋がっている。


これは前に暇過ぎて書類に目を通してたら偶然見つけた。


奴隷商人から奴隷を買い、その奴隷を辱める。


中々にクズ。


よし。


「これは暗躍のチャンスだ!」

「絶対言うと思いました」


フィリアは半ば呆れて言う。


「ですが、突然侯爵が消えれば不審に思う者も出てくるでしょう。その辺の対策はどうするおつもりで?」

「大丈夫さ、対策くらい練るさ。安心しろ」


俺は暗躍が大好きだ。


陰で悪党どもをさばき、表では一般ピープルを装う。


不思議な優越感に浸りながら、夜空を眺めて嗜むワインは格別だ。


俺は、最早その為に生きていると言っても過言では無い!


「よしフィリア!豚侯爵を潰しに行くぞ!」

「はぁ〜。分かりました。ですが、その前に他の資料にも身を通して下さい。今はまだ昼です。暗躍ならば夜に活動するべきかと」

「えぇー!嫌だよ。このご時世、仕事なんてしたら負けだぞ?俺は皇子として負けてても、人として負けたくはない!」

「既にあなたは負けているので心配は無用だと思いますよ?」

「……フィリアよ。最近お前機嫌悪くないですか?今日だっていつもだけど言葉が辛辣だし」

「それはっ!その……」

「ん、なんだ?聞こえないぞ?ほら!人を叱るなら堂々と大きい声で言ってみたまえ!仮にも君は皇子の側近なのだろう?」

「うぅ〜。だって」


フィリアが俯きながらモゴモゴと口を動かす。


フィリアは美人さんだ。

フィリアは俺が3歳の時にはもう隣にいた。

だからフィリアの事なら大抵の事は知っている。


スリーサイズとかスリーサイズとかスリーサイズとか。


だから、あまりフィリアの所作に新鮮さを覚える事は日に日に減るのだが、今のフィリアは……とても新鮮だった。


俯きがちだった頭を勢いよくあげて、フィリアは顔を朱色に染めながら、


「だって、最近ルシア。私の事全然構ってくれないんだもん!私寂しいよ!ルシアに本当はもっと可愛がってほしいだもん!私だって恋する乙女なの!機械じゃないの!欲望くらいあるもの!」

「おっ、おう。そっ、そっか」


なんと行成の盛大なカミングアウト。

まぁ、実は俺はフィリアが好きだったりする。

未だ恋人同士ではないが、お互い友情以上の特別な感情を持っている事は確かだ。


俺だってそこまで鈍くはないし、正直フィリアみたいな美人に言い寄られたらしたら抵抗できる自信なんてない。


だから普段は抑えている。


放蕩皇子と民達に言われる不名誉な称号を事実にしたくないからだ。


そう言ったデリケートな案件は、互いの意見を尊重し合ってするべきだと思う。


俺は意外にも貞操観念には厳しいのだ。


「……フィリア。俺だってお前の事は好きだ。だが、分かるだろう?欲望に無闇に身を任せれば、いずれ崩壊してしまう。こういうのは、お互いもっと真剣な時にしよう」

「……うぅ〜。はい」


もったいない!とてももったいない気がする!


しかし、俺は!俺は!


我慢ができる男だ。


これから女を弄ぶ豚野郎を捌きに行くのに、自分が奴と同じ土俵にだってどうする!


それは遊びではなく、偽善になってしまう!


「フィリア、城下町に出るぞ。街の治安や状況をこの目で確認したい」

「分かっ、分かりまし……た」


おお〜マイロードよ。


いずれ私の息子の夢が叶うよう、密かに願っております。

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