帝国の皇子です、そして転生者です〜「俺、暗躍とかしてみたかったんだよね」「左様ですか……」

白季 耀

第1話プロローグ

生まれながらにして、不公平だ。

だからこそ、世界には格差が常に生じている。

生まれ持った才能、境涯。

それら全て異なる故に、人は生まれながらにして一定の縛りを受けている。


だから、何か新しい事をしようとした時、とても難しい。


まず、何事も、最初が一番難しいのだ。


だが、その難しいにも、格差はある。


それは、高貴な家か、否か。

家によって財力や権力はまちまちだ。

もし商会を立ち上げたいなら、まず前者である必要がある。そうでなくても、そのアドバンテージを補填できる何かが必要だ。


だから、生まれの貴賎の格差は、人が人生を生きる上で、常に付き纏う格差だと、俺は解釈する。


だから俺は、極めて、極めて、恵まれている。





◾️◾️◾️




世の中には、生まれた時既に自我が備わっている者が稀にいるという。


きっと俺も、そのうちの一人なのだろう。

いや、少し違うかもしれない。


何故なら、俺には記憶があったからだ。

自分自身のものでは、多分ない。

今しがた、この世界に生を受けた赤子な筈なのだから。


そう、別の誰かの、少年の記憶だ。


その少年の記憶に、俺は深く共感した。


少年の記憶の中で最も出てくるワード。


暗躍。


即ち、悪事を働く下賤共を裏で始末する。


即ち、とある御人を高い位に推挙するなど。


理想を語るのはほどほどにと言われればそれまでだが、その少年の記憶は実に魅力的と言えた。


暗躍は決して一筋縄ではいかない事を幼少より悟った少年は、日々己の能力向上に努め、裏に徹した。


しかし、歳を重ねるごとに痛感する、能力限界。


いくら鍛えても、現代兵器とやらの前では無力。

いくら鍛えても、多勢に無勢では勝ち目なし。


これは至極当然の摂理だが、同時に非情であるとも、今思い返しても思う。


しかし少年は諦めない。


己の目指す、理想の暗躍を実現するため

その時が来るのを確信して、努力を怠らなかった。


最終的には彼の志願は果たされず、望まぬ形で人生を閉じた。


だから俺は、その記憶の共有者として、継承者として、彼の驍勇を知る唯一の者として、彼の志願を自身の人生で晴らすと決めたのだった。





「今日も、闇が我らを祝福しているようだ」

「そうですね、マスター」


リーエル大陸中央部に栄える、アウストレア帝国。

大陸三強に名を連ねる強国。

そんな帝国の夜は、静かにも栄えていた。


帝国2番目に高い塔として知られる、デュオ・タワー。塔の上に、月明かりに照らされて二つのシルエットが浮かんでいた。


骨格からして男と女。


男は、センスや趣味大丈夫と言われても文句は言えない仮面をつけ、夜色がかった黒髪に黒いマントを微妙に着崩している。


印象は側から見て、ヤベェ奴である。


一方女の方は、仮面をつけてはいるが美人だと不思議な確証が湧く。美しく月の光を反射させ燦然と輝くブロンドの髪は風に委ねられ、光が舞っているようにさえ見える。そのおかげで、彼女の魅惑的な肢体や豊満な胸が殊更強調されている。それでいて知的な雰囲気も醸している。


印象は側から見て、エロい奴である。


どうしてこの組み合わせなのかは分からない。

男の方はどう見ても、変質者の域を逸脱した、絶滅危惧種。


普通の感性を持った女の人ならあまり近づきはしない。


しかし、ブロンドの美女はうっとりと見惚れるようにして男を見ている。


それは、間違いなく恋する乙女のそれだった。


「フィリア、準備はできているか?」

「……」

「フィリア?」

「あっ、はい!準備は整っております、マスター」


男に見惚れ心ここにあらずだったフィリアと呼ばれた美女はしばし慌てる素振りを見せるがギリギリ取り繕った。


「よし流石フィリアだ」

「ああ、ルシア様〜」


ルシアと呼ばれた男は優しくフィリアの髪を撫でる。

それをとても嬉しく感じるフィリア。


少年が撫でるのをやめると、フィリアは「あっ」と露骨に残念そうにするが、心を整えて指を鳴らす。


すると音もなく俊敏な動きで二人の周りに影が集まる。


帝国2番目の高さを誇る塔の上にあっさりと集結した者達。その指を鳴らしてから数秒の間なく集まったことから、彼等の力量が垣間見える。


「全員集まったな」


総勢10名を見渡すようにして視線をやった後、男はマントを態とらしく翻して、


「パーティーを始めよう!」

「「「「「「「「はい、マスター」」」」」」」」


その日の夜。


悪事に手を染めていると噂された悪徳商会が、一夜で壊滅した話は、暫く帝国領土の話題となった。

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