第16話クラス大会 昼食


 クラス大会午後の部。

 各上位クラスの優勝者が決まり、表彰されていく。その場でさっと行われる簡易なものだ。


 やはり注目を集めたのは騎士クラスの決勝戦。

 騎士クラス優勝決定戦の生徒は充分な技能を持つと認められ、盾の使用を認められている。盾と剣で派手な打ち合いが繰り広げられ、その迫力は実戦さながらだった。


 事実この生徒達はすぐに騎士団に入隊する可能性の高い者達でもあるのだ。学生とはいえ下手すればそこらの冒険者を凌ぐ。また、将来を約束されたエリートでもあるため、黄色い声援も凄かった。




 その少し前、昼食風景。


「やっぱええなあ、ああいうの」

「ちょっと、ディル。まさかキャーキャー言われたくて騎士クラス目指してるんじゃないだろうね?」

「アホ言うな。ちゃうわ。でもええやん。ええもんはええねん」

「最低ですわね」

「ホントホント」


 弁当を広げながら寛ぐ。

 これは騎士クラスの決勝戦が行われる前の話。

 要するに別に決勝戦じゃなくとも騎士クラスの試合での黄色い声援は凄いのだ。


「午後の団体戦、楽しみですわ」

「正直どこと当たっても厳しいよ」


 団体戦ルールは基礎クラスが行った前哨戦と同じだが、あちらは各クラス選抜生徒の混合チーム。つまりバルドークラスの完全上位互換チームといえる。


 インベントリも無詠唱も封印を決めているクロムには、正直勝つビジョンが浮かばない。

 午前の試合ではっきり分かった。下手すれば自分が一番の足手まといの可能性すらある。


「なんや、やる気ないやん」

「そういう訳じゃないけどさ」

「勝てなくないでしょ?」


 唯一可能性があるとすればチームワークだが、あちらは冒険者としてのそういった混合編成の実戦授業まで行っている。仮にチームワークで勝っていたとしても戦術はあちらが上だろう。


 クラス大会まで情報漏れを防ぐため、クロムが考案した最強戦術は見せないよう徹底してきたが、午前の試合でそれもやるまでも無いかな、と思い始めてすらいる。


「ねえ、クロム」


 マリーの顔がずいっと近付く。

 思わずゴクリと唾を、いや噛んでいたポント肉の塩焼きを飲み込む。


「もしかしてあれやるの嫌だとか思ってる?」

「いや……うーん」

「オマエが考えたんやんけ!」

「どうして嫌なんですの?」


 クロムが考えた最強戦術。

 はっきり言ってしまえばちょっと卑怯だ。

 クロムの感覚でいくとそうなる。自分で編み出しておいてなんだが、午前の少年漫画的なノリを見ていると自重しようかな、とか思えてきてしまった。


 バルドーでさえ瞬殺した奥義。


 だが何故かこいつらはノリノリだ。

 ワクワクしている。

 どうして基礎クラス決勝であんな戦いをした連中がそんな風な考え方でいられるのか、ちょっとクロムにはこの世界の住人の感覚が分からないでいる。


「嫌というかさ。こう、なんだろ」


 上手く説明できない。

 何かスッキリしない。


「あれやったら勝てるんちゃうん?」

「というかまともにやっても勝負にならないだろうしね。僕は楽しみにしてるんだけど」


 あ……。


「そうですわ、度肝を抜いてやるんですわ!」

「ね、楽しみ!」


 なるほど。そういう事か。

 こいつらはハナっから勝ち目なんぞ模索していないのか。ズガーンと雷に打たれたような衝撃。


 真っ向勝負の勝ち目を探っているのは自分が勝ち目があると思っているから。

 その気になればという立場に立っているからこそ、卑怯だとか何とか思うのか。




 そうかそうか、とクロムも考え直す。

 またゲーマーの悪い癖が出ていたようだ。 

 どうせ負けて元々というクラスメイトのようにお気楽に、いわば負けイベントだと思って一矢報いてやるくらいの気持ちでいればいいのか。些細なイタズラだと。


 不意に気持ちが楽になった。

 マジになる必要無いか。


「よし――」

「あ、いたいた!」


 口を開きかけた所に掛かる黄色い声。


「ねえねえ君!」

「はい?」


 振り返ると緑の長いストレートヘアと青のボブカットの女子生徒が二人。上位クラスの制服。

 なんちゅう派手な髪しとんじゃ、とクロムが仰天するもお構い無しに話が進む。


「君さ、ランクⅡの魔法使ってたよねえ?」

「あ、はい」

「なんかさあ、聞いたんだけどスペイド以外もランクⅡ一杯使えるんでしょ?」


「まあ……」

「て事は魔法クラス志望だよね?」

「一応そのつもりです」

「やっぱりそうなんだ! やったあ」


 キャッキャはしゃいでいる。

 何なんだ? とクロムがいぶかしむ。

 クラスメイトも呆気にとられている。


「実はさあ、支援魔法科って回復魔法科じゃない方扱いっていうかね」

「ねえ、肩身狭いんだよねえ」

「クロム君ていうんでしょ?」

「回復魔法ダメなんだよね? て事は支援魔法科なの? 攻撃魔法科志望なの?」


 すげー喋るじゃん、とか思っているクロムとエイクの目が合う。エイクも仰天している。


「えっと、今のところ支援魔法科にし――」

「やあああ! やったやったあ!」

「皆に報告しなきゃ!」


 二人は抱き合いぴょんぴょん跳ねると、バシバシと嬉しそうに互いを叩き合う。その横でエファとマリーが冷めた目で砂埃から弁当をかばっている。


「じゃあ、クロム君! 待ってるからね!」

「仲良くしようねえ~」


 そう言い手を振ると、バタバタと駆け去っていった。ヒュウウ、と風が吹いたような気がする。




「……ええな、モテて」

「ね。可愛い人達だったね」


 ディルとマリーが冷たい表情で弁当を食べ始める。エファはこれ見よがしに服をはたいている。


「うん……いや、なんだろう」


 なんだこの空気は。


「品の無い方達ですわ、まったく」

「ほんと、そう思う」


 分からなくはないが。俺のせいじゃねえ。


「ほんで、クロムはん。モテモテのクロムはんには必要あらへんから、午後はもうええっちゅう事やな?」

 

 エ○ス丸かテメーは。

 しかし話題を変えてくれたのは有り難い。

 ここは先程俺が考えを改めた事を伝えて空気を変えよう。一致団結の空気よ再び。

 

「いや、俺が間違ってたよ。やっぱりただ負けるのは悔しいもんな。せっかくだか――」


 あ。






 もしかしてこれって、このタイミングでって、今のでやる気出されたって誤解されね?



「……へ-え」


 マリーの視線が冷たい。


「クロム……」


 エイクがわずかに引いている。


「……」


 エファがマリーの肩を抱き寄せ、俺から遠ざけようとしている。


「死ねばええんちゃう」


 うるせえ。

 後レギは少しくらいリアクションしろ。



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