第45話 何かに導かれるように

半分ほど閉まったシャッターをくぐり店に入る。段ボールがそこここに積まれ、什器の中にもほんの少ししかペンは刺さっていない。もう小売りをしている気配はない。店の奥に声をかけ、ショーケースの上に広げられた伝票の束をどかしてショーケースを覗く。シャッターの隙間から入るわずかな明かりだけが頼りだ。乱雑に並べられたペンはもうどこのどの商品だかわからない。ただ、とても古いものであることはよくわかる。昭和文具の墓場。そんな中から、これはと思う一本を見つけ出し手に取る。動作を確かめ、内部を確認し「これくださーい」と店の奥に声をかける。奥から老人が出てくる。そこで初めて店を見渡す。懐かしい。堪らなく懐かしい。「こんな店で万年筆をお求めとは、どちらのかたですか?」と老人が問う。「ときたです」「えっ?あそこのうちのかい? お兄ちゃんか!」「そうです!」「まあ。。立派になられて。。」その店は小学校の隣にあり、小学校に上がる前から駄菓子や工作に使うケント紙や少し大きくなってからはプラモデルなんかを買っていた店で、店主はもちろんその当時の人だ。小学校はもうだいぶ前に統合され高台に移転してしまい、今は校舎とグランドだけが残る。店はそれから客足がぱったり途絶えた。「あの頃は大変お世話になりました。」「あの頃は毎日来てたね。ほんとに立派になって。。」涙ぐむ店主を見てこちらも涙になる。店がまだ賑わっていた頃勇んで仕入れたと思われるその万年筆を求める。税はいらないと言う。会計の後、店主はごそごそと奥の引き出しを探し、切手シートのようなものを僕に手渡した。商店街のクーポン券だと言って手渡されたそのシートには、まだ昭和の日付が印刷されていた。

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