第41話 sakura

数年前・・・


王子の駅で乗り換えの電車を待つ間、まだ枝だけのさくらを見て、

「ああ、今年もさくら、見れるかなぁ」とひとり言を言うと、

一緒に帰っていた矢部さんに「見れますよー」と笑われた。


深夜の残業中に意識を失い救急車で運ばれて、それでもなお毎日18時間程働いていた僕は、その年、さくらが咲くまで生きているかどうか、本当に分からなかった。というより、生きていられるとは思っていなかった。


その年、駅のホームからさくらが見れたが、「これで最後かな?」と思った。

その数日後、医大に緊急入院した。入院中、院内感染が発生し高熱が続いた。

これで死ぬなぁ と思った。

結局生き残ったのだが、体力のなかった同室のじいさんは死んだ。

患者は隔離、病室は閉鎖され消毒が入った。


それから、さくらの見れた季節を数えるようになった。

さくらの咲く季節が近づくと、「ああ、今年もさくらが見れるかなぁ」と思う。


さくらの木の下に立ち、満開のさくらを見上げて、生を噛み締める。

俺は生きているぞ。生きてやるぞ。 と思う。


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