第35話 千秋のこと
千秋が夢に出てきて、ひどく狼狽する。
千秋は僕の中高の同級生で、いわゆる不良だった。が、僕とはなぜか馬が合い、よく長い間一緒にいた。
ポーカーゲーム機賭博喫茶で警察が踏み込んできた時、一緒に裏口から逃げたのも千秋だし、僕にお酒を教えたのも千秋だ。
僕はちっちゃかったので、酔ってここには書けないようなことをいろいろされたりもした。
そんな千秋とも高校になるとだんだんと趣味が違ってきてしまい、
千秋は千秋で「龍虎雀友会」という麻雀のグループを作って賭け事に興じていたし、
僕は僕で、海に行ったりバンドをしたり、映画を撮ったりしていた。
どんどん離れてゆくふたりを繋いでいたのは、腕相撲だった。
ちっちゃくて非力だった僕はいつも千秋にいとも簡単に負けてしまうのだが、千秋は毎日僕に腕相撲を仕掛けてきた。
スキンシップを求めていたのだと思う。
腕相撲が終わると、またそれぞれの道へ行ってしまう。 せつない腕相撲だった。
千秋は大学に進学せず、東京に出てしまった僕とはそれきりになってしまった。
今頃どこで何をしているのか。夢のせいで、千秋の腕の感触が生々しく蘇り、ひどく狼狽する。
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