第33話 熱海の沈船

その日僕らは卒業してから久しぶりに会い、


前の晩は遅くまで飲んでいた。




翌朝、気持ちワリーとかいいながら熱海までクルマを走らせた。


ダイビングというのは朝が早い。



熱海には沈船があるということだった。


熱海湾に沈んだ船が漁礁となっていて、沢山の魚が住み着いているということだった。




熱海に着き、まだ酔いの残る身体にウェットスーツを着た。



港からボートで5分。



新幹線が見えるような、そんな間近なところがダイブポイントになっていた。



メンバーは、ケンゾー、ニシダ、ニシミヤと僕。



学生時代の一緒にダイビングをしていた同期なので、皆、腕は確かだ。




一瞬のアイコンタクトの後、ボートから逆落としに水に入る。


白泡に一瞬視界が染まる。そのまま潜水する。


集合は深度10m。何も言わずともピタリと自然に集合ができる。





はずが、この日は違った。




潜った途端、皆が皆、それぞれバラバラな方角へ進み始めた。




酔っているのだ。




沈船を眼下に確認していた僕は、笑いながらナイフを抜き、



背中のタンクをカンカンと叩いた。



水中でこのカーンという高い音はよく響く。



ビクッとして、ようやく事態に気付き、にやけながら集合する面々。






沈船は思ったより大きかった。



少し不気味な姿を薄暗い海に横たえ 周囲を沢山の魚が回遊していた。



貝が付きガラスなどはとうの昔になくなっている窓から、



ゆっくりと沈船の中に入り、



頭をぶつけないよう気を配りながら、中に入ったり出たりして楽しんだ。




こころゆくまで暗い船と遊び、エアーをわずかに残して浮上する。




ボートに上がるや否や、



「まったくー なーにやってんだよ!」



と笑いながら罪のなすりあい。



水中で集合できないなんて恥さらしな事、皆初めてだ。






陸にあがって温泉につかりながら、



「飲んで潜っちゃだめだって教わったろ!」



と笑いあう。





熱海はそんな思い出の海である。

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